第47話 兄の参加理由

 王城の一室にこちらにも悩まし気な面持ちで物思いにふける青年がいた。


「会えるだろうか」


 期待と不安が織り交ざった声色でへラードは呟く。


 以前、城で見かけたプラチナブロンドの髪を靡かせた女性のことが気になり、頭から離れないのだ。


 本人の知らないところであれこれ調べるのは出歯亀のようであまり気乗りがしない。


「こういうことは直接会って話すのが一番だろう」


 自然に近づいて、何気なく声を掛けて、自然な流れで会話をして、相手を知る方がいいだろう。


 この前夜祭が勝負なのだ。


 神殿の関係者だということだけは分かっているので、この狩猟大会にも同行していることを願ってへラードはこの大会への参加を決めたのである。


 どうか、この場所に来ていますように。


 知り合う以前に、彼女がこの場所に来ていなければ自分がここに来た意味もないのだ。


 会えるかどうかも分からない相手のためにこんなことをしていると知ったらゼルディノには呆れられてしまいそうだな……。


 呆れた顔で溜息をつくゼルディノが目に浮かび、へラードは苦笑する。


 立ち上がり、鏡の前に立って自分の顔をまじまじと見つめた。

 そこにはいつもよりも少し緊張している自分がそこに立っている。


「自然に、だぞ」


 少し緊張気味の自分自身に言い聞かせ、鏡の前で表情を解す。


 黙っていても女性からのアプローチが絶えなかったへラードは女性の方からの誘いに応じることには慣れているが、自分から女性にアプローチすることには慣れていないことに今更ながら気付かされた。


 上手く知り合うことが出来たら、狩猟大会で獲得した獲物は彼女に捧げよう。

 それを機に少しでも距離が縮めることが出来れば上等だ。

 そう考えるとノバンからの頼みはノバンのためだけでなく、自分にも利がある。


 アマーリア嬢のためにラム・ハーゲンという魔物を仕留めたいと、いつになく意欲的な弟を見てへラードは協力することに決めた。


 しかし、自分の能力をこういった競争事に使うのは正直なところ気が引ける。

 だが、男として意中の女性に格好つけたいという気持ちも今の自分には理解できる。


「少し早いが支度をしよう」


 へラードは意気込んで使用人を呼び、前夜祭の準備を始めた。



 男達はそれぞれの想いを胸に前夜祭へ臨むのであった。








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