第46話 心情
クライシスが退室した部屋で一人、ゼルディノは頭を悩ませていた。
部下の察するところによると、ノバン・ヘンビスタがハーディス・ファンコットに未練があるらしい。
「どういうことなの……意味が分からない」
自分から婚約破棄を切り出し、あまつ、彼女を家から追い出すような状況を作った張本人のくせに一体どういうことなのか。
男女の機微に疎い自分にはさっぱり理解できない。
考えれば考えるほど苛立ちが募り、胸の中がムカムカして頭に血が上りそうになる。
身勝手にもほどがあるでしょ。
逆ならまだしも。
いきなり婚約破棄された彼女なら彼に未練があっても致し方がない。
しかし、そう考えるとどうにも胸の中がざわざわして落ち着かなくなる。
いや、あの男は止めておいた方がいい。
婚約者を蔑ろにして婚約者の妹に平気で手を出すような男だ。
あのまま結婚してもろくなことにならなかっただろう。
結婚後もトラブルが絶えず、心労を抱えることになったはずだ。
彼女には申し訳ないがある意味、この婚約破棄は彼女の未来を救ったと言えるのではないのだろうか。
このまま、ノバン・ヘンビスタのことなど忘れてしまえばいいのだ。
しかし、彼女の視界に彼の姿がチラつけば彼女も絆されてしまうかもしれない。
そんなことはあってはならない。
ゼルディノは立ち上がり、このことをハーディスに直接伝えるべく、ドアノブに手を掛けたところで立ち止まる。
「……いや、僕が急に出しゃばるのもおかしくない?」
突然しゃしゃり出てきて何を言っているんだと不審な目で見られるに違いない。
特別親しくもない自分が『あの男は止めておけ』と言ったところで心に響かないだろう。
自分はヘンビスタ家の夜会でゼノとして一度きりしか会っていないのだ。
となればどうするか……。
ゼルディノはドアの前で静止したままで思考を巡らす。
「今夜の前夜祭には彼女も出席するはず……」
狩猟大会前日の今夜は城主からの激励ともてなしを受ける。
参加者達は他の参加者や令嬢達と交流し、ダンスや食事を楽しむ小規模のパーティーが今夜は開かれる。
ゼルディノは自分の黒い髪を指で摘まみ上げてまじまじと見つめた。
どうせ明日まで人前に出ないのだから髪の色を戻してしまおうと思ったが思いとどまって良かった。
前夜祭には参加しない予定だったが皇太子としてではなく、ゼノとして参加する分にはあまり目立たずにハーディス・ファンコットに会えるかもしれない。
ヘンビスタ家でのお礼を言って、その流れから会話を繋げて最終的にノバンに対して忠告した方が自然で違和感も少ないだろう。
あの男は彼女に相応しくない。
ゼルディノは眉間に深いしわを刻み、強く思う。
大して親しくもない自分がこんなことを思うのもおかしな話ではあるがノバンがハーディスにした仕打ちを許せないのだ。
絶対に二人の復縁だけは阻止したいゼルディノは頭の中で念入りにシミュレーションを行い、予定になかった前夜祭に臨むことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。