第41話 嫌な再会

 部屋を飛び出し、身に纏う長いドレープが翻るのも厭わず、廊下を駆け足で走り抜けた。


 焦燥感だけが先走り、足が縺れそうになるのを堪えて登った時以上に長く感じる階段を下っていく。


 一階に降りてハーディスはそのまま真っすぐに城の入り口を目指した。

 古城の扉付近はかなり混雑していて、人で溢れていた。


 ハーディスは視線を巡らせて先ほどの黒髪の青年を探すが、見つけることが出来ない。


「いない……」


 目立たないようになるべく壁際を移動して外に出ると、つい先ほどまであったはずの青年が降りた馬車も姿が見えない。


 乱れた呼吸を整えながら一人一人を慎重に確認していくが、やはり見つからない。

 馬車の横付けを待たずに馬車を降りたくらいだ。


 もしかしたら急いでいたのかもしれない。


 既に彼は自分が宛がわれた部屋に入ってしまった可能性が高い。


 そうなると会うのは難しいですね。


 ハーディスはもっと急げば間に合ったかもしれないと後悔して肩を落とした。


 もし会えたらネックレスのことを謝りたかったのに……。


 ヘンビスタ家の夜会で突如噴水の中から現れた青年から受け取った赤いネックレスは既にハーディスの手元にはない。


 大事に片付けていたのに妹、アマーリアに奪われてしまった。


 あの時に無理矢理取り返すべきだったかしら?

 いいえ、あの時に私があのネックレスに執着していることがアマーリアに知れてしまえばなおのこと手放さないはず。


 飽きっぽい妹は同じ宝石やアクセサリーを何度も身に着けるタイプではないし、何でも新しいものを好む。


 いずれあのネックレスも他の宝石に紛れて、私から奪ったことも忘れ、宝石箱に仕舞われてしまうわ。


 折を見て人を雇ってあのネックレスは取り返すつもりだ。

 アマーリアの魅了の力に惑わされないメイド役を探さなければならない。


 そう考えるとしなければならないことも多いですね。


 彼がこの城に来たということは恐らく狩猟大会の参加者だ。


 開会式もありますし、その時にまた探してみましょう。


 ハーディスは一旦、青年を探すことを諦めて部屋へと引き返すことにした。

 階段へと向かう廊下を歩いていると曲がり角の向こうから人の話し声が聞こえてきた。


 しかもその声に聞き覚えがあるため、ハーディスの心臓が小さく跳ねる。

 

「この声……まさか……」


 死角になる場所で曲がり角の向こうの様子を窺う。



 間違えであって欲しいと思う願望と間違えるはずがないという確信がハーディスの中で入り混じる。


 死角になる場所で曲がり角の向こうの様子を窺い、その人物の姿を見止めて疑問符が脳内を占拠した。


 何故に貴方がここに⁉

 いえ……もしかしたら……幻かしら?


 医神の杖を取り戻さなくてはならないことがプレッシャーになり、幻覚を見せているのかもしれない。


 ハーディスは覗いていた顔を引っ込めて一度大きく深呼吸をする。


 目元を擦り、それから大きく瞬きをして乾いた眼球に潤いを取り戻した後、もう一度廊下の角の向こうを覗き込む。


 幻ではないですわね……何故ここにいるのでしょうか?


 ハーディスは不可解な表情と共に首を傾げる。

 そこには元婚約者であるノバン・ヘンビスタの姿があったのである。

 

 




 

 

 

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