第34話 病院帰りに

 一足先に神殿に戻ったハーディスは荷物の整理と片付けを終えて、ブラウンの到着を待っていた。


 アスクレーは用事があるからと業務を早めに引き上げて行った。


 その表情には疲労の色が滲んでおり、患者の治療がアスクレーにとって負担になっているのではないかと思う。


「お疲れ様でした、ハーディス様」


 労いの言葉をかけてくれるのはルマンである。


 ハーディス達が病院に行っている間、神殿を預かるのはアスクレーに任されたルマンの仕事のようだ。


「お疲れ様です。戻って参りました」


 しかし、ブラウンの姿がないことに気付いたらしい。


「アスクレー様と私を先に帰して、彼だけ戻らないのです」


 その言葉に何かを察したのかルマンは溜息をついた。


「そうですか……そんなに心配なさらずともすぐに戻りますよ」


 心配そうに窓の外を見ていたハーディスにルマンは優しく声を掛ける。


「アスクレー様も随分お疲れに見えましたが大丈夫でしょうか?」

「もうお歳ですからね。いくら医神といえど、いつまでも若い頃と同じという訳にはいきません。まぁ、年齢にしてみたらお元気な方ではありますが」


 ルマンは苦笑いで答える。


「医神の杖を手放してしまったことも原因の一つだと考えられます。あの杖には歴代の医神がその力を注ぎ込むことで自身の力が衰えてもその身が朽ちるまで力を使えるようにと作られた杖だそうですから」


「そうなるとますます杖の奪還が重要になるわけですね」


 医神の杖を取り戻せばアスクレーの負担も減るだろう。

 しかし、ルマンの表情は曇ったままだ。


「今戻った」


 背後から声が掛かり、振り向くと病院から戻ったばかりのブラウンの姿があった。


「お帰りなさい」

「お疲れ様です、兄さん」


 ハーディスとルマンはブラウンを労いの声を掛ける。


「先に戻りましたが、何かあったのですか?」

「忘れ物を届けてもらってそのまま世間話をしていて遅くなっただけだ。問題ない」


 ブラウンは素っ気なくハーディスに告げる。


「お前も疲れただろう。今日はもう休むといい」

「ですが……」


 特別疲労を感じてはいないハーディスは躊躇う。


「そういえば、王宮図書館で調べ物がしたいと仰っていましたよね? 今日は曇り空で来城も少なく、利用者も少ないかと思いますよ」


「…………そうですね。では今日はこれで失礼致します」


 何となくこの場に留まれない空気になり、ハーディスはその場を後にした。


 図書館で調べ物をしたいと思っていたのは本当だ。


 この機会に足を運んでみようとハーディスは神殿を出た。

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