第15話 探していたのは君じゃない
「どういうことですかな?」
ジェネットの言葉にゼルディノは正直に答えた。
「私が探していたのはアマーリア嬢ではありません」
「待って下さい! 私じゃないってどういうことですか⁉」
声を荒げるアマーリアにゼルディノは溜息をついた。
そのままの意味だけどね。
その時、ゼルディノはアマーリアの胸元で揺れる赤いネックレスに視線を奪われた。
ちょっと、何でこの子がこれを持ってるの?
アマーリアの胸元で光る石は間違いなく、あの女性に渡したものだった。
「私はヘンビスタ侯爵家で催された夜会で出会った女性を探していました。強い聖力を持つ女性です。あの場所に聖力を持つ生まれ変わりはファンコット家のアマーリア嬢ではないかと聞き、誤解したのです。それに、私は貴女とは口を利いたこともない。ヘンビスタ侯爵の弟と仲睦まじくダンスをする姿なら見かけたかもしれないが」
ゼルディノは辛うじてその記憶を呼び起こす。
やけに男達に囲まれていたのが彼女だ。
そうなると、へラードの弟は婚約者をほったらかしてその妹と夜会を楽しんでいたらしい。
へラードの弟が彼女にべったりと引っ付いていたのは印象に残っていた。
「なっ……」
その言葉にアマーリアは絶句する。
「私も聞きたいことがある。その首飾りはどこで手に入れたんだろう?」
唐突にネックレスを指摘されてアマーリアは戸惑っている。
「その石は私がその女性に渡したものだ。何故それを持っている?」
アマーリアが身に着けている石はあの夜、彼女に贈ったもので間違いない。
「そんな、何かの間違いよ! だってこれはお姉様から……」
「お姉様?」
「えぇ……じ、自分よりも私の方が似合うから使って欲しいと言われたのよ」
歯切れの悪いアマーリアの言葉にゼルディノは違和感を覚えた。
「伯爵、ハーディス嬢は今どちらに?」
ゼルディノの問い掛けに伯爵は無言で視線を逸らす。
「お姉様はもういないわ。卑しい真似をしてお父様から追い出されたのよ」
ジェネットの代わりに答えたのはアマーリアだった。
「追い出された?」
「そうよ。婚約も破棄されて、今はどこにいるかも分からないわ」
ゼルディノは驚愕して言葉を失う。
「お姉様なんて放っておきましょう、ゼノ様。それよりも私と一緒に……」
アマーリアはそう言って許可もなくゼルディノの腕に自分の腕を絡める。
「触らないでくれる?」
ゼルディノは冷たく言い放ち、アマーリアの腕を払い除ける。
まさか振り払われると思っていなかったのか、アマーリアは心底驚いたような顔をしていた。
「伯爵、これで失礼する。こちらの品は勘違いをさせてしまったお詫びだ」
先ほどまでの畏まった喋り方と、愛想の良い顔を崩して冷たくゼルディノは告げた。
「あぁ、そうだ」
ゼルディノは一度アマーリアを振り返る。
そして手の平を上に向けてアマーリアの方に伸ばした。
「え?」
自分が見つめられていると勘違いしたらしいアマーリアが頬を染める。
ゼルディノがくいっと微かに指を動かすと、アマーリアが首に下げていたネックレスのチェーンが千切れ、石がゼルディノの手元に戻った。
「返してもらうよ。これは君に贈ったものじゃないから」
これは僕の力を結晶化したもの。
言ってしまえば僕の一部。
それを許してもいない相手に所有されるのは気分が悪い。
「……っ!」
悔しそうに奥歯を噛み締めるアマーリアと唖然としたままのジェネットに背を向けた。
「申し訳ありません、まさかこんなことになろうとは」
馬車に乗り込んで早々、深々と頭を下げるのはマルコだ。
ゼルディノとファンコット家の手紙のやり取りをしていたマルコは至らなさに頭を垂れた。
「いや、いい。確認しなかった僕も悪い」
ゼルディノはあの夜に聖力を持つ者がアマーリア・ファンコットだけだという情報を鵜呑みにして自分を助けたのは彼女だと思い込んでしまった。
しかし、会ってみると探していた女性とは全くの別人で、あの時に感じた神秘的な雰囲気も聖力も全く感じない。むしろ、何だか嫌な気配が混ざっているようにも感じた。
しかし、何故この石をアマーリアが持っていたのだろうか。
アマーリアの言葉から姉が関わっていることは間違いなさそうだけど。
「マルコ、ハーディス・ファンコットについて調べてくれる? それから今どこにいるのか探して」
「承知いたしました」
もしかして自分が探しているのは姉の方なのかもしれない。
婚約破棄されたと言っていた。
家を追い出せれ、婚約者に捨てられたとなれば、行く宛もなく彷徨っているのかもしれない。
あの容姿で一人フラフラしていては危険過ぎる。
「早急に探し出して」
もし、自分が探している女性がハーディスであれば早く見つけ出さなければ。
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