Can I help you?
ぐらにゅー島
愛してる。この世の誰よりも。
10年前、君は自殺した。
でも、そんなラストは望まない。
そして、僕の心のざわめきが、これは他殺だったと語りかけてくる。
そんな確証は全くないのに…。でもそう願ってしまうのは。
君は、僕の大切な女の子だったから。
今でも、君を想ってる。心の底から愛してる。
僕は、近所の古びたビルにやってきていた。
周りには何もなく、忘れ去られた街といった風景だ。
曇り空も相まって、なんだか憂鬱な感じだが…。
でも、ここに僕の希望があるんだ。
風の噂で聞いた。ここには時間を戻せる魔法使いがいると。
そんな怪しさ満点な噂だが、そんな藁にも縋りたい気分だった。
「いらっしゃ…っ⁈…いらっしゃい。」
古びたドアを開けると、黒い男がいた。
黒い、と言っても肌が黒いとかじゃなくって…。むしろ、青白い顔をしている。
黒のTシャツに、黒のスキニーパンツ。意外とラフな格好をした、僕と同い年くらいの男である。
「ここで、過去に戻れるって本当か?」
魔法使いといったら、お婆ちゃんかと思ったが…。
今は多様性の時代らしい。
「あの…時間は戻せますけど…。どうしたんですか?」
オドオドしながら、男は話しかけてくる。
「あ、あの。10年前に戻りたいんです。いくらでも払うので!戻してください。」
なんだか、頼りないように見えるが僕には彼しか希望がないのだ。
頭を下げて、お願いする。
「えっと…。本当に戻るんですか?後悔、しませんか?」
僕が顔を上げると、男はさっきまでの雰囲気とは打って変わって低いトーンで話し始める。
「本当に、後悔なんてしません。だって、今こんなにも後悔してるんだから…。」
最悪という言葉は、最も、 悪い と書くんだ。
今が最悪じゃなくって、何が最悪なんだ?
10年間、彼女のことだけを想っていた。彼女を救うために、今まで金を稼ぎ、生きていたんだ。
「わかりました。僕は魔法使いですが、魔法は万能じゃない。おそらく、貴方はこの時間に戻って来れない。それでも、いいんですか?」
真剣な表情で、僕に話してくる男。
「えっと、おそらく…ってどういうことですか?戻れない人もいるってこと、ですかね?」
なんとなく、さっきの彼の言葉が気になって尋ねる。
「ああ、それは…。まあ、いい子はお家に帰れるということですよ。」
男は苦笑いして、僕を見てくる。
ま、運が悪かったら帰れないってことか。
「大丈夫です。お願いします。」
「じゃ、目を瞑ってください。十秒経ったら目を開けていいですからねー。」
なんだか、話がうまく行きすぎな気もするが…。
でも、この男に賭けるしかない。
僕は目を瞑って、十秒数えた。
僕が目を開けると、そこは廃ビルの中だった。
てか、10年前からここ廃ビルなんだ…。
「…桜の下、だったよな。」
彼女が亡くなっていたのは、桜の木の下だった。
だから、あの桜のある公園に行こうか。
桜の下には、実際彼女がいた。
実物の彼女は、写真の彼女とは全く別人に見えるほど可愛くって。
写真では、こちらに目線のあるものがなかったかも知れないが、さっき一瞬目の合った彼女はより、綺麗だった。
僕の横を走り去って行く時、フワッと香ったにおいが十年前のものと同じでドキッとした。
本当に、戻ってきたんだ。
僕も、彼女を追って桜の木の近くに行く。
こんなふうに君にバレないように、君をみるのは懐かしいものだ。
「っ!?」
草木に隠れ、彼女の方をみると、隣には知らない男が居た。
…いや、本当は知っていたが。知らないフリをしていたんだ。
彼女は、その男とキスをした。
その瞬間を、見てしまった。
息をするのを忘れて、僕は彼女をみる。彼女は、僕には見せたことのないほどの幸せそうな顔をしていて。
「おい、お前、誰だよ。」
思わず、彼女と男の前に立っていた。
「えっと…?あの、ごめんなさい。お義父さんですか?」
男は、マズイといった顔をして僕を見た。
「ううん、知らない人…。」
彼女は、男といるのを見られたかもしれないといった恥ずかしさで、顔を赤くしながら首を振った。
そうだよな。大人になった僕じゃ、見た目も変わって分からないのも無理はない。
「信じられないと思うけど…。ほら、僕だよ。毎日電話くれる男の子いるでしょ?
僕、君を救いに未来から来たんだよ?ね??」
「あ、あの…」
彼女は、なんだか口をぱくぱくさせている。
「もしかしてお前、この子に毎日毎日手紙投函したり、写真を勝手に撮ったり、家までストーカーしてたりするんじゃないか?」
男の方が、僕を睨んでくる。
「ストーカーって…。僕は彼女に悪い虫がつかないように、見守ってただけだよ。」
なんだか懐かしいものだなあ。
彼女と出逢ったのは、駅前でだった。僕が落としたハンカチを拾ってくれたんだ!
それって、僕が好きってことだよね?付き合ってるよね!?
だから、こんなにも愛してるんだ。
「なあ、コイツやばいって…。この前言ってたストーカーって、コイツだよ。」
「うん、うん…‼︎」
ふと、彼女の方をみると、男は僕をキッと見ており、彼女は絶望を顔に滲ませていた。
彼女の手は、男の手の中にあって…。つまり、二人は手を繋いでいるというわけで…。
彼女は、あの男が怖いに違いない。助けなくては‼︎
「やめて、近寄らないで‼︎」
僕が彼女を助けるために近寄ろうとすると、彼女はそう叫んだ。
「近寄らないで…?僕に、言ってるの?」
彼女はうんうんと頷くと、涙を滲ませた。
僕を、拒絶した?
彼女は、男に抱きつき震えていた。
…僕じゃなく、あいつを選ぶのか?僕はこんなにも彼女を愛してるのに。
愛してる。愛してるんだ。十年前からずっとずっとずっと。好きだ、好きなんだ。好きだ好きだ大好きだ。
だから…僕のものになればいいのに。
「っ⁉︎お前、何してんだよ!!」
気がつくと、彼女の鼓動は止まっていた。
僕の手によって。僕が、彼女の首を絞めたから。
男は、僕を殴ってきた。
でも、もう遅い。僕が殺したんだから、彼女は僕のものだもんね?
「許さねえっ‼︎」
男は、僕に馬乗りになり、首を絞めてきた。
よくみると、この男の服は黒尽くめだな…。
彼女と同じ死に方ができるなら、本望だ。
「さて、今頃アイツは死んだのかな?」
ある廃ビルの中にいる、黒尽くめの男はぽつり、とそう言った。
あの、十年前に恋人を失ったショックは忘れられない。
そして、彼を殺したことも…。
僕の家は、魔法使いの家系だから。あの男の死体を、彼女に見せかけるように魔法をかけた。
だから、あの事件は、彼女の自殺ということで終わった。
え?彼女の死体はって?
そんなの、決まってるじゃないか。
僕は、廃ビルの奥の部屋に入る。
流石に、魔法でも生き返らせるなんてこと、できないからね。
そこには、大きなガラスの棺があって彼女があの時の姿のまま、眠っている。
僕は彼女に、キスをした。
Can I help you? ぐらにゅー島 @guranyu-to-
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