第268話 【感情の勇者】

 俺の言葉に先ほど倒した虫けら3匹が尊敬の眼差しでこちらを見ている。


「...さすがです」


「これがリィカ達の主人様が認める同格の男...!」


「はっはっはっ! 間違いない! このお方で決まりだ!」


 何やら言っているが五月蝿い。


「五月蝿い蠅どもめ、俺の前から消えろ」


 杖を振り上げて1匹ずつ殴って行く。


 全状態異常とステータスダウンのかかった相手など雑魚当然だ。


 しかしながら殴られている最中にも奴らは俺に対する敬意を失いはしなかった。


 それが気に入った俺は止めだけは刺さずに半殺しでとどめておく。


「次は...どいつだ?」


 俺は辺りをキョロキョロと見渡す。


 すると...。


「和希? あんたその格好は...?」


 目の前に蛙の少女が現れる。


「敵? 敵か?」


 見ただけで分かる強者の風格。


 俺はそれを見てニヤリと笑う。


「ドス黒い瘴気の塊...! あんた呪われているのか!?」


「敵...敵だ!」


 俺は早速【幻影剣】を放つ!


「おっと! その攻撃は何度も見たからね。流石に当たらないよ!」


「やるではないか、ならば【強制攻撃】!」


「体が勝手に!?」


 奴の体が動いて俺に近づき1発殴りつけてきた。


「体が急に重く..!?」


「ペナルティだ」


「ペナルティ? 和希が殴らせたんだろ?」


「和希とは誰だ?」


 その言葉に驚く目の前の少女。


「あんた...和希は自分の名前だよ!? そんな事も思い出せないのか!?」


「和希...俺の名前...?」


「こりゃ相当重症なようだね、ちょっと荒っぽいけど私が治療してあげよう」


 そう言いながら俺に向かって水の魔法を放ってくる娘。


 災害にも似た激しい水の渦が俺に襲い掛かるがそれを正面から受け止める。


「【幻影盾】→【幻影壁】」


 幻影の壁にてせきとめられた水は俺に当たることなく四散した。


「あんたにそんな防御力あったっけ? 力を隠してたのか?」


「力を隠す? 今の俺こそが本来の俺だ」


「...。絶対に違うね。呪いのせいで頭が爆発してるんだ、今のあんたは」


 ギュッと拳を握り締めた奴は何やら小瓶のような物を取り出した。


「今あんたの頭を正気に戻す! だから動くな!」


 そう叫ぶ彼女に俺はせせら笑う。


「ほざくな小娘」


 ゆっくりと杖を構えた俺は静かに笑うのだった。

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