第87話 小鳥遊優樹

 俺達は身支度を済ませると次の町へと向かう。


「優樹、そろそろ行くぞ」


 俺の言葉の彼女はこう答えた。


「...何で和希は私の事を責めないの?」


「...はっ?」


 いきなりそんな事を言い出す彼女に俺は呟く。


「今回の件は神父のアイテム偽造を見抜けなかった俺の責任だ。思えば少しいいのに代えるとか言い出した時点で俺は奴を疑うべきだったんだよな。よって優樹は何も悪くない。悪いのは俺だ」


 俺は自分が悪い理由を並べて彼女の気をそらそうとしたのだが...。


「嘘。私がここに滞在しようって言わなければフォルトさんは死ななかった。この提案をした私が全部悪いんだよ」


「それは話がこじれすぎだ! そうなると俺はここでレベル上げすら出来ずに他の町に向かう事になっていただろうし、そうなった場合他の勇者共と鉢合わせた可能性もある。なんだかんだ長い間俺たちを匿ってくれたフォルトには感謝しているさ。勿論この提案をしてくれた優樹にもな」


 そう言っているのに彼女はうじうじとし始めた。


「でも...私のせいで...」


 こんな弱気な優樹は久しぶりに見るな。


 ここ最近というかここ数年はずっと明るい表情しか見てこなかっただけに新鮮である。


「まあ、そう気を落とすなって。俺はいつもの調子の優樹が1番好きなんだしさ」


 あれ? 自分で言いながらすっごく恥ずかしい事を言っているような気がしてきたぞ?


「まあ、なんだ。行くぞ」


「うん...和希は優しいね」


「俺が優しい? 馬鹿言え」


 素気ない態度を取ってはいるが彼女の心中を察しているだけだ。


(俺が優樹の立場だったのなら、俺は俺自身を責めていただろうしな)


「待って!」


 いきなり大きな声を上げる彼女の方向に俺は振り向く。


「どうした?」


「うん、ちょっとね...。やっぱり和希は私のヒーローだって言いたくて」


「俺がヒーロー? 弱虫で何もできない男だぞ俺は」


「そんな事ない! 和希は凄い人だって私は昔っから知ってるもん! だって私が変われたのは和希のおかげなんだから!」

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