第33話

ダルマの修理目処が立ったので、

今度は作戦会議だ。


博士に特殊警察の山寺さん、

ライダースーツを着た用心棒の小清水さんに、

俺に加えて、


「消防隊のリーダーを

しております塩屋です。

いつもお世話になっております」


とハスキーボイスの塩屋さんが加わった。

敬礼も見事だ。


「ダルマさんのお世話になっていることもそうですが、

我々もこの騒動については

どうにかしたいと思っております。

協力させてください」


「こちらこそよろしく頼む」


博士は一礼をした。

すぐに本題を切り出す。


「山寺くん、

ビョードーは次にどう仕掛けてくると思う?」


「向こうから見てダルマはすぐに動けない。

ならば最後の詰めとして

ビョードー自ら出てくると思います」


「昨日のビョードーは違うんですか?

本当にゼンを迎えに来ただけです?」


「ヤサシくんの思った通りだろう。

わたしがヤツの影を追っている限りで

初めての出来事だ。


わたしたちを挑発しに来たとも思えるが、

ビョードーにしては非合理的だとわたしは思う」


「おそらくはカインドマテリアル製ヘリを動かせたのは、

ビョードーだけなんじゃろう。


カインドマテリアルの適性があれば、

自分で操縦してなくても載っているだけでよい」


「なら、カインドマテリアルで

できた乗り物が出てくれば、

それにビョードーが載っている可能性が高いですね。


それだけでなく、護衛や工作員などを、

多く引き連れていることが予想されるでしょう。

それは我々特殊警察が相手をします」


山寺さんは気合のこもった言い方をした。

俺の知らないところで、

山寺さんはビョードーとやりあってきたのが感じられる。

決着をつけたいのは俺だけではないんだろう。


「ってうことは、

古い戦争みたいにわーって

もみくちゃな争いになるかもってことです?」


俺は手を上げて山寺さんに質問した。

自分や同僚が大怪我をする、

あるいは死んでしまうことを

覚悟したように山寺はうなずく。


それは嫌だなって俺は思う。


山寺さん特殊警察のひとたちは

大変な仕事を覚悟してるっても、

できる限りケガとかしないことにこしたことはない。


それにビョードーの部下には、

ゼンと同じように騙されて、脅されて、

追い詰められて利用されているひとがいると思う。

どうにかしたい。


前の俺ならどうにもならなかったが、

今はダルマが力を貸してくれる。

できることはある。


「なら、ダルマがいることが分かれば

迂闊に攻めてこないってことですよね?

ダルマを先に出して

ビョードーを動きにくくできないですか?」


「ヤサシくんが我々を気遣ってくれるのは嬉しい」


「じゃが、ダルマを出すには相応の理由がいる。

ましてや戦い――ケンカするために出て行くと

怖がるひともいるじゃろう」


山寺さんも博士も、

俺の意見をボツにするのは

気が引けてそうな声で言った。

やっぱ素人の考えることはダメか。


「なら消防隊から、

街の復旧作業を手伝ってほしいと

要請を出しましょう。


そうすればダルマさんが

出る理由が作れます。

実際に瓦礫のひとつでも

動かして貰えれば御の字です」


優しい声で言いながら、

消防の塩屋さんが手を上げてくれた。

博士も山寺さんもこれには素直にうなずいてくれる。


「それならば先手を取って警戒できる。

手続きが大変かもしれぬがお願いしたい」


「ご協力ありがとうございます」


俺も博士と揃って頭を下げた。

消防隊の偉いひとはポリポリと頭をかく。


「そうすればゼンが来たとき、

真っ先に俺が相手できるな……。


いや、ケンカすることを考えてちゃダメか。

これ以上街をグチャグチャにしたら、

塩屋さんたち消防隊のひとたちが大変だ」


「構わない……と言ったら語弊があるが、

ダルマさんも救出活動をするんだ。


我々消防隊も火を消すために、

わざと建物を壊すときがある。

同じようなものだと思ってくれればいいよ」


俺の戸惑いに対して、

塩屋さんはニッコリと笑いながら言ってくれた。

俺は少し気が軽くなたった気がして、

元気に礼を言える。


「分かりました、ありがとうございます」


――会議中失礼する。

博士、ボディダルマの改修作業が終わった。

指示を頼む。


「ボディダルマ?」


野田さんの連絡を聞いて、

俺は初めて聞く名前を繰り返した。

博士は近くの内線を取って、


「分かった。

ヤサシくんに乗ってもらう準備を頼む」


博士はすぐに返事をして受話器を置いた。

それから俺の方を見て説明してくれる。


「今までのダルマと違うからの。

向こうもダイグソクなんて名前をつけたんじゃし、

なによりただ修理するだけでなくパワーアップするのじゃ。


ひとを助けるためにより

『徳の高い』にしたんじゃよ」


「『徳の高い』なんて言い出したら、

本当に大仏みたいですね。


では、なるはやでお手伝いの要請を出しますので、

よろしくおねがいします」


消防の塩屋さんは早足で出ていった。

俺もすぐに立ち上がり、


「では、俺も行ってきます」


と言って会議室を出た。


廊下を早足で進み格納庫にたどり着く。

廊下はすべて工事が終わっており、ピカピカだ。


「来たか富士。見ての通りだ。準備しろ」


さっそく整備の野田さんが声をかけてくれた。

パワードスーツを着ながら、

レンゲザに立つダルマ改め

『ボディダルマ』の見慣れない姿を見る。


体から足にかけては、

最初に完成したときの姿に近くなっている。


なのでグソクから持ってきた腕がより大きく見えた。

カインドマテリアルで作られてなければ、

持ち上がらず動かせない重さになっていたと思う。


そして顔もグソクから移したパーツが

マスクのようになっていた。


顔つきは怖くなったが、

ケンカで顔を殴られ前が

見えなくなるのを防ぐため、

あるいはダルマの怒りを

表しているのかもしれない。


あるいはゼンのロボット作りの考えを

褒めているとも取れる。


それ以外にもグソクから持ってきたパーツは黒くなっていた。

焦げた色ではなく、

意図的に色を変えたようだ。


「動かし方はなにも変わらん。

腕が気持ちデカいから、

作業のときは注意しろ。


それと右腕だけに

グソクのアームパンチ機能がついている。


プロテクトは二重にかかっており、

パイロットの音声認識と司令室からの承認で解除だ。

使うときは必殺技のように宣言しろ」


俺よりさらに固く真面目な野田さんの口から、必殺技なんて言葉が出て、俺はちょっと目を見開いた。だが、それよりもアームパンチでなにが起こったかを思い出し、俺はすぐに眉をひそめる。


「アームパンチって、

爆発の原因になったヤツですよね?

外さなかったんですか?」


「火薬の量や仕組みに問題があったから爆発した。

作った小諸ゼンも、

さすがに専門外だったんだろう。


だからこちらで正しく動くように直してある。

あんなことにはもうならん」


俺はまだ納得できず細い目で

ボディダルマの右腕を見つめていた。

野田さんは俺の思っていることを察したのか、

説明を続ける。


「ダルマに武器らしい武器を載せるのは初めてだ。

それに間に合せで作ったから、

一度や二度の使用で

右腕自体が破損の可能性がある。


アームパンチを使うときは、

本当に必殺必中一発終わらせるつもりでいけ」


「武器なんですね、

これ。じゃあ使わないほうがいいか……」


野田さんの説明を聞いて、

俺は自分の中にあった不安が

ようやく分かってつぶやいた。


ひとを助けるためのダルマが

武器を持つのはなんだか違う気がする。


すると野田さんは俺の正面に立って言う。


「いや、ここぞというときはためらうな。


ダイナマイトも戦争の道具になったが、

本当は仕事を楽にするために発明された。


それと同じだ。ひとが作ったものなんだから、

ひとを助けることに使える。


戦うために作られたグソクのパーツを使ってひとを助けろ。

それが小諸ゼンの優しさを

証明することにもつながるだろう」


野田さんはいつもの硬い顔なのに

なんだか優しげな声で言った。


俺の勘違いかもしれないが、

俺だけでなくゼンに対しても言っている気がする。


「分かりました」


俺は野田さんの優しさをより感じた気がして、

強くうなずいた。


野田さんも自分の言ったことが伝わったと感じたのか、

満足気にうなずく。


「よし行って来い!」


野田さんは強く俺の背中を叩いてくれた。

その勢いに押されるまま、

俺はダルマのコクピットを目指す。

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