第22話

ゼンは昨晩からずっと本部地下の倉庫にこもっていた。

すでに昼も夜も分からない。


「ダルマにはカタログスペック以上のなにかがある。

カインドマテリアルが力を発揮する理屈と関係があるの?


でもそれについて全くわからない以上、

それに頼らない強さが必要だ」


そばには封の空いていない

エナジードリンクの缶が置き去りだった。

飲もうと思ってたが、

考えることと手を動かすことに夢中で、

結局今も目についたものの手を出さない。


「だったらダルマとの戦いで壊れた腕は修理するより、

新しく作ったほうがいいな。

あっちは条約で予備は作れないし、

戦闘用の改造はできない。

その分こっちが有利だ」


つぶやきながら、

おもちゃのブロックを組み立てたり壊したりしていた。

さらに考えを口にする。


「ロボットを強くするにはいろいろな方法がある。


重くて頑丈にする、

身軽にして素早くする、

強い武器をもたせる。


だけど自分が動かすためだけ、

ダルマに勝つためだけに作ってはいけない。

それは不平等だ。

ダルマに勝てて、量産化できそうで、

みんなが使えそうな改造……」


「お疲れ様です、イネインさん。

レポートを拝見いたしました」


ビョードーはそう言って開発室に入ってきた。

今日のビョードーには珍しく取り巻きはひとりしかいない。


「代表、お疲れ様です。

申し訳ありません。

せっかく皆さんのちからを借りて作った

グソクを壊してしまい、挙げ句研究所の調査も、

ダルマの破壊も叶わず」


ゼンはすぐにビョードーの方を向いて、

深々と頭を下げた。


腰を九十度以上に曲げて、

謝罪の気持ちをとにかく伝えようとする。


気持ちが伝えられなければ、

空気を読んだ動きをしなければ平等ではない。


「いえいえイネインさん、

思い詰める必要はございません。


イネインさんはちゃんとグソクを持ち帰ることができました。

既存技術の応用にすぎない重機よりも、

グソクのほうが大事なのはワタクシが言うまでもなく、

ご理解していただけている証拠です」


「ですが、ビョードー代表を始めとするみなさまと比べて、

僕の成果が少なく感じます。

それは僕の落ち度です」


頭を下げたまま、ゼンはさらにお詫びを重ねた。

一度の許しで頭を下げたら、

反省の色がないと思われる。

やりすぎと言われるほど謝ってようやく相手に伝わると、

ゼンは考えている。


「成果はありましたよ。


イネインさんの働きにより、

石丸研究所には公開されていない

地下エリアがあることが分かったわけです。


もしかしたらあそこに、

神谷研究所から持ち出された

『ゴホンゾン』があるかもしれない。


今まで手がかりがなかったのに、

そこまで推測できる情報を手に入れられたのは十分です」


「はい。おっしゃる通りの成果はありましたが……」


「確かに相手の言うことに従ったのは

不平等な行動でしたね。

それはイネインさんご自身が納得してないでしょう。

ですが、あそこでは間違っていなかったと思います。

あのまま進んでいたら

本当に『ゴホンゾン』を壊していた可能性があります」


ビョードーは優しげに、

長々とていねいにフォローしてくれた。


(珍しい。代表が不平等を認めた上で、

不平等な行動が正しいと言った)


ゼンは思わず顔を上げた。

もちろんそこには穏やかな顔のビョードーがいる。


(他人と比べて平等に成果をあげていない、

つまり不平等であれば処分がある。

だけどこう言ったなら粛清や追放処分はないかも。

よかった……)


「そう言ってくださるとありがたいです」


ホッとしつつそう言って、

ゼンは腰を持ち上げた。

戦いで暴れたからか、

疲れか、緊張か、怯えか、少し体がふらつく。


「イネインさんはお疲れのようですし、

取り急ぎご要件をお伝えしましょうか。

グソクの修理の進捗をお伺いできますか?」


「はい。パワーアップを考えています。

ですが、将来的にみんなが使えるように考えているので、塩梅が難しくて……」


ゼンは作業台に手を載せ、

ふらつく体を支えながら説明した。

ビョードーと目線が合わせられず、

作業台に目が行く。


そこにたっているのは

グソクの設計図代わりにになった

ブロックのロボットが立っていた。


だが腕がついておらず、

足元に複数散らばっている。


ビョードーもそれを見て細い目をさらに細めた。

状況を察したようだ。ゼンは慌てて言う。


「あっ、ですが、ちゃんとやります。

世の中平等でなければいけませんから」


(苦戦しててもちゃんとできると思ってもらわないと。

でなければ引き継ぎ要員を連れてきて、

僕を捨てるかもしれない。

そうしたらどうなるか……)


ゼンの弁解を聞いて、

ビョードーはうなずいて言う。


「分かっていらっしゃるのであれば、

ワタクシから言うことはありません。

うまくいったらもう一体、作っていただけますか?」



「同じものを、ですか?」


想定していなかったことを言われて、

ゼンは下から目線で聞き返した。

ビョードーは優しげな声で続ける。


「正確に言えば『みんなが使えるグソク』です。

イネインさんに続いて、

ワタクシもグソクを動かえることを

みなさまにお見せしなければなりません」


「代表が自らグソクを動かすのですか?

あっ、いえ、信用していないのではなくて、

ご足労いただけるのかという意味で……」


「そうです。

すべてをいきなり平等にすることは難しい。

それはワタクシも承知です。


ですので、ワタクシが自ら

平等にできることを見せなければと思いました」


「分かりました。

パワーアップと合わせて、作ります……」


ゼンはなんとかやる気のある声を出して答えることができた。

『作ってみます』とか『なんとかやってみます』みたいな

自信のない言葉が危うく混ざりそうだった。


「よろしくお願いいたします。

とはいえ、休憩はしても構わないんですよ。

機械に任せるところは任せてみるなど工夫してくださいね」


ビョードーは満足げに

うなずきながら言葉をかけてくれた。


するとフラっと黒服スーツの取り巻きが出てきて、

ビョードーに耳打ちをする。当然ゼンには聞こえない。


「承知しました。ご苦労さまです」


取り巻きに礼を言ったビョードーは部屋を出ていった。

取り巻きもそこについていく。


緊張が溶けたゼンはため息を付いて、

椅子に腰を落とした。

ふと蓋の開いたエナジードリンクが目に入る。


「あれ、エナドリの缶開けたっけ? まあいっか。


そんなことより代表のグソクと、

パワーアップのことだ。


そいえば代表たちの置いていった資材に、

採掘機に使う火薬がある。


パイルバンカーなんて

ロボットゲームでも使いづらいものはつけられないし、

重機のときにも当てられなかった。

でも応用した機構なら作れるし、使いやすいはず……」


ゼンはエナジードリンクに口をつけて、

「なんか味違う?

疲れてるのかな。

でもせめて3Dプリンタに任せられるところまではやらないと」


そう思ってゼンは、

エナジードリンクの缶を置いて、

おもちゃのブロックに手を伸ばした。

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