第21話

「すまねぇ、グソクを見逃した。

あいつ山の上の湖に飛び込みやがった……」


「こちらも通話等のリンクが切れて、追跡ができませんでした」


その後、グソクをバイクで追いかけた小清水さんと、オペレーターの茅野さんが、

揃って残念そうな声で教えてくれた。

この日もう一度攻撃されることはないだろうと言うことで、

ダルマは研究所に戻り修理、俺は家でぐっすり休ませてもらった。


次の日、

「おはようございます」


研究所にやってくると、

今日も会議室で大人たちは難しい顔をしていた。

テーブルの上にはグソクの写真や英語で書かれた文章などが出ている

タブレットが散らばっている。


「うむ、まさかこんな形で水中の適性が認められるとは、

ぼくも思っておらんかったんじゃ。


八奈見も研究を先越されて不機嫌じゃろうな……。

しかもカッチュウの量産研究は古谷の分野じゃし、

あっちもこっちも先を越されてばっかりじゃ。


うむ、分かった。

今後条約に則って作られたものはカッチュウ、

条約に反して作られたものをグソクと呼ぼう。


どこで誰が作ったかはこれからじゃ。

未確定な情報を流して先に手を出されたら救えるひとも救えん。

うん、任されたぞ」


博士は先日よりでかい声で電話をしていたが、俺の顔を見ると電話を終えた。


「おはようヤサシくん、早速だが別の部屋で話があるんじゃ。先に言っておくけど、悪い話じゃないよ」


そう言って俺は隣の部屋へ連れて行かれた。

いつも使われている会議室より狭くて、

なんだか壁が固く見える。


だがそんなことより、

待っていた顔を見て俺は声を上げる。


「父さん!? なんで?」


「山寺に頼まれてな。

地元のことを調べるなら地元の人間に聞きたいとか」


「それ以上に、今回の情報は当事者と、

信頼しているひとにだけしか話したくないというのもある」


父さんが俺の疑問に答えて、

さらに特殊警察の山寺さんが答えてくれた。


山寺さんの言葉を聞いて、

俺はなんだか手足に自然を力を入れる。


それにもしかしてここ、防音対策がされてて、

秘密にしたいことを話す場所なのか?

今、博士が鍵かけたし絶対そうだろ。


そんな俺の疑問を流して、

山寺さんは淡々とした声で本題に入った。


「先日見てもらった手紙の主が分かった。それと手紙内に書かれた人物と思われる人物もだ」


「えっ!? ってことは重機とグソクを動かしてたヤツもっ!?」


俺は思わず説明口調なことを叫んで、すぐに口を抑えた。

でかい声を上げちまったが、誰もそれを俺に指摘しない。

やっぱ防音室のみたいな部屋なのか。


山寺さんがタブレットを俺に差し出した。

写真もそうだが、タブレットの電波が圏外のマークになっている。

電波も止めるのかこの部屋。


いやそれはいい。だってここの写真の女の子は、


「前に研究所の近くで、変なヤツらに絡まれてた女の子だ……」

「そして重機との戦いに巻き込まれそうになった女の子でもある」


博士も当然覚えがあったんだろう。

俺の言うことに付け加えて言った。

何かを察したように父さんがうなずいて話を続ける。


「この子は小諸ケイという中学生の女の子だ。

家族構成は両親兄姉妹。

住所は隣町で、魔改造重機、

グソクどちらの戦いの被害も受けていない。


そして兄の名前は小諸ゼン。

手紙の名前とも一致する。


博士、彼について情報があるんですよね?」


父さんも淡々と説明してから、博士に話を振った。

すると博士は話をしづらそうにため息をついて口を開く。


「彼は研究所のバイト募集に応募してきたひとりじゃ。

ロボットのコンテストや競技で活躍していたと履歴書にある。

ブロックを使ってアイディアを文字通り組み立ててることに感心した。


じゃが、募集をかけてたのは

カインドマテリアルの発掘作業員。

今回は採用を見送ったんじゃ。

じゃけどそのあと一体何があったのか……」


「ケイって子に話を聞きましょう!

魔改造重機やグソクに乗っていたヤツは手紙の通りゼンなのか、確認の必要はあります」


「ヤサシくん、確認はこちらでできる。

わずかながらグソクパイロットの情報はあるんだ。

情報解析にかければ必要な情報や判断材料は割り出せる」


「パイロットの確認だけじゃないです。

ケイはまた兄ちゃんのことを気にして、

危ないところにやってくるかもしれません。


俺たちが調べるって伝えて、

せめて危ない目に合わないようにするべきです。

もちろん言い出したんで俺がやります!」


 直感的に思った俺は許しを求めてでかい声を上げた。

途中で口を挟んだ山寺さんは眉をひそめる。

博士は別のことを考えているようにぼやく。


「うむ……やっぱりそうなるか。

ぼくが行こうと思っていたが、

ヤサシくんがいれば相手の警戒をほぐせるかもしれぬ」


「いや博士、万が一

グソクパイロットと鉢合わせたらどうするんですか?

そもそも博士が行くこともこちらは反対ですよ」


「山寺さん、そうしたら俺がそのまま説得します。

通信越しで顔も合わせてなかったから、

伝わらないことも多かった。

だから出会えるなら望むところです!

グソクパイロットのことを任せてくれたんですから、

このまま俺に任せてください!」


 俺は拳を前に出して意気込みを見せた。山寺さんは腕を組んで目線を落とす。


「山寺くん、もしここで事が起これば、

組織の尻尾をつかむことができるかもしれぬ。


それに小諸家が関係者家族だった場合、

早急に保護が必要じゃろう。

捜査協力だと思って、

行かせてはもらえぬか?」


博士は冷静に山寺さんに必要性を説いた。

山寺さんは組んでいる腕にさらに力を入る。


「捜査協力か……。

奴らに苦汁を飲まされ続けてる我々としては、

たしかにありがたい。

……富士トウ、父親としてこの提案OKするか?」


顔を上げて山寺さんは父さんに聞いた。

父さんはすぐに答えてくれる。


「もちろんだ。

息子が危ない目に合うことは見過ごせないが、

息子がひとのために本気でやろうとしていることを止めることはできない。

もし止めるのなら、研究所で働くことから止めているさ」


「ありがとう。父さん」


「お前たち親子はもう……。


とはいえ、我々警察から聞き込みをするより、

関係者を名乗れる博士と、

学生のヤサシくんが言ったほうが

情報を引き出せるかもというのは確か……。


仕方ない、我々は護衛だけにして、

ふたりに行ってもらいましょう」


「ありがとうございます、山寺さん」

「協力に感謝する」

俺と博士は揃って頭を下げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る