第16話

「おはようございます」


朝の打ち合わせに俺はいつもどおりにやってきた。

会議室に入ると、寝不足気味の大人たちが

テーブルの上のタブレットや書類や写真とにらめっこをしている。


そんな中、博士は誰かと電話をしているようだ。


「こっちはなんとか防衛に成功した。

街は大変なことになってしまったが、

ケガ人はでても死人はおらぬよ。


事を起こした組織については検討がついておる。

あとは証拠じゃな。


ああ、山田はとっくに良くなっておるが、

軽トラ共々しばらくこちらで預かる。

どんな方法であれ、今ここから動かすと不審に思われるじゃろう。

また連絡する」


博士は電話を切って俺の方を見た。


「おはよう、ヤサシくん。

昨日も言ったけど、今日は休んでよかったんじゃよ?」


スマホをテーブルの上に置いた博士は、

挨拶を返して、気を使った言葉をかけてくれた。


一番偉いひとなので間違いなく徹夜のはずだが、

会議室にいる誰よりも顔色がいい。


「いえ、学校が休みになっちゃったんで来ました。

それに、みなさんがそんな顔をしているのに、

自分だけのんびりできません。


だから、万全の体制でダルマを動かせるようになるため、

俺は家に帰って寝るという仕事をしてから来ました」


俺は力強く答えた。

すると特殊警察の山寺さんがこちらに顔を向ける。

こちらも徹夜にはなれているんだろう、

今日もイギリスのスパイ映画にでる俳優みたいなかっこいい顔だ。


「頼もしいね。

ならちょっと一緒に考えてほしいことがある」


山寺さんが差し出してきたのは白い布手袋と封筒だった。

刑事ドラマで犯人の手がかりでも見せるような様子だ。

俺はそれにならって、

先に手袋を受け取り手にはめてから、封筒に手を伸ばす。


「犯行声明文でも届いたんですか?

ってそれにしてはかわいい字だ」


俺は文を読む前に思ったことをつぶやいた。

周囲から笑いが溢れる。みなさんも同じ感想みたいだ。


――突然のお手紙失礼します。

わたしは昨日、ダルマさんが変な乗り物と戦っているのを見ました。

わたしたちのためにがんばってくれたこと、ありがとうございます。


――お伝えしたいのはお礼だけではなく、

変な乗り物についてです。

あの乗り物は兄が作って、兄が動かしていたのかもしれません。


――兄は昔からおもちゃのブロックで遊ぶのが好きで、

そこからひとの役に立つ機械やロボットを作る勉強もしていました。

ロボットでスポーツをさせる大会でも入賞したことがあります。


その兄の作ったロボットやブロックとあの乗り物が見た目も動きも、

すごく似ているような気がしたのです。

もちろんわたしは博士や学者さんのように詳しいわけではありません。


ですが、兄が悪いことに巻き込まれている気がして仕方がないのです。


――加えて、兄が長らく家に帰ってきていないことも、

嫌な予感の理由です。

とても家族思いで、それだけでなく

みんなに優しい大学生の兄だったのですが、

お仕事探しがうまくいかなくなった頃から、

様子がおかしくなっていました。


最近街にできた慈善団体の施設を

出入りしていることまでは分かったのですが、

施設に行っても兄がいたことはありません。


――兄の名前は『ゼン』といいます。


この手紙が事件を調べるきっかけになればと思いますが、

それ以上に兄が事件に関わっていないか確認を、

関わっていたら助けてほしいです。


兄が事件となんの関係もなかったら、ごめんなさい。K.K


俺が手紙に目を通し終えて顔を上げた。するとと山寺さんが聞く。


「心当たりはあるかい?」


「ゼンという名前にも、

K.Kっていうイニシャルも俺の知り合いにいないです」


「そうか……。監視カメラに手紙を出す女の子が映ってたが、

ティーンエージャーくらいとしか分からなかった。

事件のことがちょっとでも分かるかもと思ったんだけど、仕方ない」


山寺さんは重い声で言って、俺から手紙を受け取った。

ドラマでよく見る証拠を入れる透明な袋が出てきて、

手紙はそこに仕舞われる。


使えないとは言ったが扱いが慎重なので、

のちのヒントになってほしいと期待が残ってるんだろう。


俺は手紙が視界から見えなくなるまでぼーっと見つめてから、

やや自信のない声で聞く。


「当てずっぽう、勘みなんですけど、

あの重機に乗ってた男子のことについて俺の思ったこと言っていいですか?」


「いいよ。彼と一番話をしたのはヤサシくんだ。

その意見を聞きたい」


山寺さんが答えてくれると、

俺の恐る恐るで縮こまりそうな背中が、

真っ直ぐになった。求められたことをハキハキと言える。


「重機の運転手は、

手紙の内容に書かれたゼンという男子だと俺は思います。


あいつ本当は優しいヤツで、

なにか理由があってあんなことをしたとすれば、

おかしな行動にも説明ができる気がするんです」


「おかしな行動とは、

ダルマを攻撃する絶好のチャンスを無視し、

さらにあの場から逃走せずに人助けをしていたことだね」


さっきまで黙って聞いていた博士は、

自分も似たようなことを感じていると口を挟んだ。

俺は強くうなずく。


「はい。もし仕方のない理由があって

あんなことをしているのなら、説得して、

破壊活動とかを止められるかもしれないです。

次も、俺にまかせてくれませんか?」


「だが、次も同じように来るかは分からないよ」


「いいや山寺くん、僕は次も同じ人物が来ると思う。

カインドマテリアルのパワードスーツを扱える人物は、

そうそう見つかるわけじゃない。


ましてやあれだけのものを動かせるんだ。

魔改造重機の運転手は、

ヤサシくんと同じくらいの素質があるのかもしれん」


「つまり、博士は魔改造重機に相当するモノがでる。

そう予想してるんですか?」


「うむ……。先日の騒動の裏で、別の研究所も襲われてるんじゃ。


二度目の襲撃を受けた神谷研究所に、

古谷の研究所、このふたつはぼくの同期が所長をしてる研究所だ。


所長はしてないが

ぼくたちの後輩がいる研究所も過去に襲われたことがある。


日高くんがいる沖縄、緒方くんのいるフランス、

佐倉くんのいるイギリス、小野くんのいるアメリカ、

被害規模こそ神谷研究所ほどではない。


とはいえ、今日までに

強奪されてきた物資や技術をまとめ上げると、

ダルマと同等のカッチュウを二体は作れるとぼくは思っておる。


もちろんそれができる技術者がいればの話じゃが」


「ならなおさら俺がやります!

カインドマテリアルをカッチュウを悪用されるのは、我慢できません!」


俺は博士の言葉を聞いてよりやる気を出した。

そんな話聞いて、あとは大人に任せろなんてできない。


「まったく……誰に似たんだか」


俺の声を聞いて山寺さんは頭を抱えた。

誰って父さんに決まってるでしょう、

と言いたいが山寺さんなら分かっているだろう。

一息ついて改めてこちらを見る。


「研究所を襲う組織についてはこちらで調べる。

他国から情報が来るかは分からんが、

国内なら教えてもらえるだろう。


手紙の差出人についても、

当人は隠れたがっているが調べさせてもらう。

この子も、助けを求めているんだからね。だがヤサシくん!」


俺の名前を強い声で読んだ山寺さんは、

キリッとした真面目な顔で見つめてきた。


「ヤサシくんに研究所とダルマを任せるんだ。

手紙や他所の被害についてはこちらに任せて、突っ走らないでくれよ」


「わ、分かりました……」


まさに釘を差された。周囲からクスクスと笑い声が上がる。

俺ってそんなに突っ走るか?

それとも父さんが突っ走るから言われたのか?

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