第29話


椎名くんの顔が視界に入って、わたしが持っていたフォークにささった玉子焼きをパクっと・・・


しない?・・・



口を開けたまま、わたしの顔をガン見しています。


え? 


食べないの?


椎名くんはしばらくわたしの顔から目を離さず、凝視という言葉そのものの体勢です。



「 黒木・・・おまえ・・・ 「 ん? 」


玉子、ゴチになります・・・ 」


食べた・・


「 うまいじゃん! 」


あれ?、わたし、何か忘れている?


いつもと違う様な、なんとなくヒンヤリ感が…ゾクっと身体中を走った。


マ、マ、、マスクッ!?


人前でマスクをつけないなんて、お風呂上がりにバスタオルを巻かないで、全裸でいるのと同じくらいわたしにとっては恥ずかしい、大切なマスクをつけ忘れてしまった。


わたしはフォークを放り投げ、両手で顔を覆うと、床に座り込んでしまった。


ショックだった。


わたしがいちばん自信のない部分を、いちばん見られたくない人に見られてしまった。


ショックで目が開けられない。


床に落ちたフォークが滲んで見える。



「 黒木?・・・ 」



『 キンコンカンコン〜♪ 』



「 ・・なんで泣いてんだよ 」



「 だって・・・ 」



「 おまえさぁ・・・八重歯…めっちゃかわいいじゃん!スッゲー似合ってるし 」


「 え?  」


「 そうだ! これ持っとけよ! 」


あのパスケースを手渡された。


「 玉子焼きのお礼なっ! 」


「 ・・・ 」


「 あとさ、わからない問題があるんだけど、おまえに教えてもらいたいから、放課後教室で待ってて…なっ! 」



「 ・・・・ 」



「 じゃあ!また!」



キョトン・・・・


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