第5話 凛奈ちゃんバラバラ事件(事件編(
「左から簡単に紹介するねー。まず一人目は
部室のソファーでそれぞれ横に並んで座る小野田くんの関係者。その関係者たちの紹介を終えて、みずきちは「ふう」と吐息をついた。
みんなのいる位置をここで改めて説明すると、ぼくと小野田くんは同じソファーに。その対面──テーブルを挟んだ先のソファーに、今回部室まで呼んだ三人がいる。みずきちと剛ちゃんはぼくの横に立ち、エリカ先輩はいつも通り自分のデスクで紅茶(ちなみに、今回呼び出した客の分も用意されている)を啜っていた。
「ま、ひとまずこんな感じかなー」
「お疲れ、みずきち。相変わらず情報収集が早くて助かるよ」
「どういたしまして~」
ぼくにおだてられ、みずきちは嬉しそうにはにかんだ。こういうところは、同じ男でも可愛いと思ってしまうなあ。見た目あっての感想だけど。
「さて……」
と目の前にいる三人へと視線を移し、さりげなく観察する。
まずは諸星くん。見た目はいかにもスポーツマンらしい健康的な体付きをしていて、水泳部というのもあってか、肌が小麦色に焼けている。顔も悪くないから、女子にもそれなりにモテそうだ。
続いて下野くん。こっちは諸星くんと違って、いかにもパリピと言った感じ。つまりは、全体的にチャラい。髪は茶色に染めて、アクセサリー類も多い。女遊びも激しそうだ。
最後は伊波先輩。小野田くんの幼なじみという話だけど、まさかの女子。しかもショートヘアが似合う高身長のスレンダーな美人。こんな美人の幼なじみと仲が良いなんて、小野田くんもなかなか隅に置けない。
「ますは恋愛探偵部の部室までお越しいただき、ありがとうございます。ぼくたちのことは前もってうちの部員から聞いていると思いますので、紹介は省きますね」
最初の礼儀として、こちらの呼びかけに応えてくれたことに礼を言うと、さっきから気怠そうに前髪をいじっていた下野くんが「別にいいけど~」と妙に間延びした口調で声を発した。
「できるだけ早くしてくんね~? こっちだって暇なわけじゃないし~」
「こら、健人。その態度は失礼だろ」
そう叱りつけたのは、下野くんの友達である諸星くんだった。
「優の宝物が壊されたんだ。友達として協力しないわけにはいかないだろ」
「もちろん、その気持ちはおれにもあるけど~。どっちかというと、瑞樹ちゃんと仲良くなりたいって気持ちの方が強いんだよね~」
言いながら、みずきちにウインクを送る下野くん。そんな下野くんに、みすきちはにこりとぼくや剛ちゃんにしかわからない営業スマイルを浮かべた。
実は下野くんに限らず、みずきちのことをよく知らないまま、見た目の可愛さに騙されて恋部の調査に協力してくれることが往々にあったりする。下野くんはぼくたちと同級生らしいけど、みずきちのことは全然知らなかったのだろう。こっちとしては好都合だ。
「あたしは最初から協力するつもりでここに来たから、別に気を遣わなくていいよ」
横にいる二人に触発されてか、ぼくから見て一番右に座る伊波先輩も口を開いた。
「それより心配なのは優ちゃんだよ。優ちゃんの大切な物が壊されたって聞いた時は驚いたけど、あれから大丈夫なの?」
「うん、みや姉」
心配そうに眉尻を下げて訊ねた伊波先輩に、小野田くんは首肯した。
「あれから鹿騨くんに、なるべくだれかと一緒に行動するように言われていたからね。もしかしたら僕の方にも危害を加える可能性があるかもしれないって」
小野田くんも言った通り、事件があった昨日の夜、これからは二人以上で行動した方がいいと助言を送ったのだ。
「そうなの? でもだったら、いっそ先生に相談した方がよくない? だって優ちゃんまで酷い目に遭うかもしれないんでしょ?」
「その件に関しては、小野田くんの意向もあってやめておきました」
伊波先輩の疑問に、今度はぼくが答える。
「物が物ですからね。いくら器物損害とはいえ、先生方に見られたら、どんな罰則があるかわからないので。だからぼくたちに依頼してきたというわけです」
「そう。だから変部に……」
少し納得がいかない感じの口調だったが、伊波先輩はそれ以上なにも言わなかった。
「……なんにしても、事件当夜のそれぞれのアリバイを聞く必要があるわね」
と伊波先輩の「変部」という呼称に苦々しい顔をしていたエリカ先輩が、手に持っていたティーカップを受け皿に戻して嘆息混じりに言った。
「でないと、一向に話が進まないし」
「えっ。待ってください! それって、俺たちが疑われているってことですか!?」
エリカ先輩の発言に、諸星くんが大声と共に突然立ち上がった。
「俺だって直接ラブドールがバラバラにされた状態を見たけど、あんな意味不明なことするわけないでしょう。特に俺なんて、小野田と同室なんですよ?」
「ええ。真っ先に疑われる立場ね」
睨みを利かせる諸星くんに、エリカ先輩は微塵も意に介さず言葉を続ける。
「だからちゃんとアリバイを聞きたいのよ。もちろん、他の二人だって変わらないわ。今のところ怪しいのはあなたたち三人だけだし」
「……本気で言っているんですか? 小野田とは同室になった時からずっと良好な関係なんですよ? それなのに疑われるなんて……」
「まあまあ。落ち着けって天。あんま怒ると禿げちゃうぜ~?」
さっき叱られた時の意趣返しか、下野くんが諸星くんの尻を叩いて冗談っぽく言った。
「それにこんな美人さんと知り合えるチャンスなんだぜ~。ここは優しく接して仲良くなっておかないと損だって~」
「お前はどこにいても変わらないな……」
下野くんの言動に呆れて怒りも引っ込んだのか、諸星くんは脱力したように嘆息してソファーに座り直した。このやり取りから見るに、下野くんはいつもこんな感じで女の子を口説いているようだ。もっとも標的にされている当のエリカ先輩は、我関せずと言った感じに素知らぬ顔をしているけれど。
「伊波さん、って言ったかしら? あなたも同じ立場だけど、それで構わない?」
「え? あ、うん。さっきも言った通り、優ちゃんの助けになれるなら、なんでも協力するつもりでいたから」
しばしの間、怒鳴る諸星くんに唖然としていた伊波先輩だったが、エリカ先輩に問われて忘我から返ってきたのか、ハッとした顔で返事をした。
「でも誓って言うけど、犯人はあたしじゃないからね?」
「そのあたりはこれから詳しく話を聞いた上で判断するわ。それじゃあ由太郎。話を進めなさい」
わかりました、と頷くぼく。いつもならこういった聞き取り調査はぼくたちに任せっきりなエリカ先輩ではあるけれど、今回は謎を解かなきゃいけない立場なせいか、気合いが入っているようだ。
「ではさっそく、事件当夜のアリバイを聞かせてもらいましょうか。じゃあ最初は、諸星くんから」
「俺か?」
と少し驚いたように目を開いたあと、少しだけ紅茶を含んで滔々と語り始めた。
「昨日の夜は、水泳部のみんなで部室に集まっていたよ。引退した先輩たちのお疲れパーティーを開いていたんだ」
「それって、何時から何時までだったの?」
「午後六時から午後八時半まで。事件が発覚したのは午後八時過ぎなんだろ? だったら俺には無理だ。部室からここまで走っても往復で二十分以上はかかるし、片付けも残っていたしな。そもそも、長い時間席を外れたら変に思われるし」
なるほど。あとで確認は取るけど、ちゃんとアリバイはあるということか。証人も複数いるみたいだし、これは簡単に崩せる類のアリバイじゃないな。
「ついでに言っておくと、寮の外出記録もちゃんと書いたし、そこでも俺のアリバイは証明できると思うぞ」
諸星くんの言う外出記録とは、桜陽学園の寮全般で決まっている規則で、午後五時以降に外出する者は、守衛室の前にある外出記録に自ら書かなければならないのだ。ちなみに門限は九時。だから水泳部の人たちも、八時半に引退パーティーを終えたのだろう。
「あ、それならおれも書いたわ~。午後七時から午後九時前まで外出してたから」
そう会話に入ってきたのは、下野くんだった。
「ちっと女友達と遊ぶ約束をしちゃってさ~。それで門限ギリギリまで女子寮の近くで遊んでたんだわ~」
門限ギリギリまで、か。言動からなんとなく察してはいたけど、どうやら下野くん、女遊びが激しいみたいだ。ちょっと羨ましい。そして妬ましい。
こほんと咳払いをして気を取り直しつつ、ぼくは伊波先輩に顔を向けた。
「では最後に伊波先輩。伊波先輩の昨日の夜のアリバイを聞かせてもらっていいです?」
「いいけど、でもあたし、昨日の夜は自分の部屋でずっと勉強していたから、一度も寮から出てないよ?」
「それって、ルームメイトの方もいました?」
「その時は他の部屋に遊びに行っていたからいなかったけど……。でも他の二人と同じで、あたしが寮から出ていないのは、外出記録を見ればわかると思う」
「あれ? それって、他の二人みたいにアリバイを証明してくれる人はいないってことじゃないの?」
みずきちの問いに、伊波先輩は少しむっとしたように眉根を寄せて、これ見よがしに首から下げた許可証を指で小突いた。
「それはそうだけど、そもそも男子寮に入るには色々手続きがあるんだよ? 君たちだってそれは知っているはずでしょ?」
もちろん知っている。今日だってエリカ先輩が男子寮に入る際、守衛室で許可証をもらっていたし、その時の記録も残っている。それはぼくたちでも確認は取れるし、昨日の夜に男子寮に行っていないと言うのなら、守衛さんだって伊波先輩の姿を見ていないはずだ。
あまり人の数が多いと、さすがに守衛さんもすべてを把握しきるのは無理があるだろうけど、夕方過ぎから夜中だったら男子の行き来も少なくなっているだろうし、なによりそんな時間に女の子が一人でいたら、さすがに守衛さんも見逃さないだろう。あそこは空き巣対策で防犯カメラも設置されているしね。
「そもそも、あたしみたいな女の子が夜中に男子寮で歩いていたら、確実に目立っちゃうよ。そりゃ、たまに優ちゃんの部屋に来ること自体はあるけど……」
「それに、みや姉はあんなひどいことをする人じゃないよ。僕の知らない間にちょくちょく部屋に来て掃除だってしてくれるし」
と、小野田くんが伊波先輩の加勢に回った。追及される伊波先輩を見て、幼なじみとして放っておけなかったと言ったところか。
ん? ちょっと待てよ?
「小野田くん、今さっき『僕の知らない間に』って言わなかった? それって、合鍵を持っているってこと?」
「うん。みや姉が部屋の掃除をしたいからって言うから、前に寮監さんに頼んで作ってもらったんだ」
「だって優ちゃんも諸星くんも、ろくに掃除をしないんだもん。寮長さんにも何度も注意されているのに」
「ご、ごめん。みや姉……」
「すみません、伊波先輩。俺も小野田も、掃除が苦手で……」
頭を下げる小野田くんと諸星くんに、伊波先輩は仕方がないと言わんばかりに苦笑を浮かべて「いいよ、もう。得手不得手はだれにでもあるもんね」と優しい声音で言った。
そっか。諸星くんと伊波先輩って、前から面識があったのか。しかも小野田くん共々、なにかとお世話になっているからなのか、伊波先輩に頭が上がらないようだ。
「待ってくれ。さっき合鍵の話が出たが、そんな簡単に作ってもらえるものなのか? 確か特許が出ている鍵なんだろう?」
「学園側が依頼して作ってもらった鍵なんだから、鍵屋に頼めば合鍵なんて普通に作ってもらえるわよ」
不意に疑問の声を上げた剛ちゃんに、事件現場にいた時にも特許の説明してくれたエリカ先輩が答える。
「それに正当な理由さえあれば、私たち生徒でも合鍵は作ってもらえるわ。当然、悪用されないよう、それなりに面倒な手続きはいるけれどね」
へえ。手続きなんているんだ。まあでも、それくらいしないと確かに悪用されちゃうか。盗難事件でもあれば、学園の信頼にも関わってくるし。
「これで小野田くんの部屋に入れたのは、ルームメイトである諸星くんと合鍵を持っている伊波先輩の二人になるけれど……」言いながら、ぼくは下野くんに目線を送った。
「もしかして下野くんも、合鍵を持っていたりするの?」
「おう。持ってるぜ~。前に天に持たされたからな~」
「……こいつとは同じクラスなんだが、健人の奴、しょっちゅう授業に居眠りして、それでよく板書するのを忘れるんだ。だから俺のノートを貸すことも多いんだけど、いつ返ってくるわからない時もあるから、いつでも返してもらえるように合鍵を渡したんだ」
「それって、寮まで持ち帰ることが多いってこと?」
ぼくの質問に、諸星くんは「ああ」と首肯した。
「こいつ、学校にいる間は寝ていることが多いからな。それで寮に帰ったあとに俺のノートのコピーを取って、それから返すことがほとんどなんだ」
「それって大丈夫? 先生にバレたら怒られるんじゃない?」
「本当にバレたらな。コピーそのものを見せるわけではないし、あくまでも赤点を避けるためのテスト対策でしかないらしい。ノートでの採点アップは見込めないけどな」
「だって真面目に黒板を書き写すとかバカらしくね~? それなら他の奴のノートを借りてコピーでも取った方が効率化だし~。ノートで採点とか、正直大した点数稼ぎにもならないし~」
「……あんなこと言っているけど、諸星くんは本当にこれでいいの?」
「こんな奴でも中学からの付き合いだからな。どうしようもないアホではあるけど、良いところも知っているし、見捨てるわけにもいかないさ」
もう諸星くんなりに折り合いが付いているのか、肩を竦めながら苦笑した。
良い人だなあ、諸星くん。そしてクズだなあ、下野くん。
「これで三人共、自由に鍵を使って部屋に入れたことになるわね」
エリカ先輩の言う通り、これで密室の問題はクリアとなる。そのかわり、三人共強固なアリバイがあったことが判明してしまったけれど。まあ、そのあたりはあとで考えるとして、あとは凛奈ちゃんをバラバラにした理由だけど──
「えー。次は凛奈ちゃん……バラバラにされた子の話になりますけど」女の子もいるので言葉を選びつつ、ぼくは話を切り出す。
「みんなは、凛奈ちゃんのことは前々から知っているんですか?」
「凛奈ちゃんって、あのめちゃくちゃリアルな?」
「あー。小野田のあれだよな。俺も同室だから、何度か見せてもらったことがある」
「下野くんと諸星くんは知っていたと。じゃあ伊波先輩の方はどうですか?」
「一応、知ってはいたかな。優ちゃん、昔からそういうの好きだったし……」
恥ずかしそうに目線を逸らしつつ、こちらの質問に答えてくれる伊波先輩。
小野田くんも言っていたけど、これで三人共凛奈ちゃんの存在を知っていたという言質が取れた。次は、その凛奈ちゃんに嫉妬を抱いていたかどうかの確認。
「じゃあその凛奈ちゃんのことで、三人はどんな風に思っていました?」
「あたしは……まあ優ちゃんも年頃の男の子だし、仕方がないかなって感じ」
最初に答えてくれたのは、伊波先輩だった。
伊波先輩は依然として顔を赤らめながらも、訥々と自分の気持ちを伝える。
「……もちろん、そういう性的な物を持っていること自体はあまりよくないとは思うけど、中学生になった頃からずっとこうだったし、止めても無駄かなって……」
「中学からあんな物を集めていたの? とんだスケベね……」
伊波先輩の話に、エリカ先輩は心底呆れたように溜め息を吐いた。男は性に貪欲な生き物だからね。仕方がないね。かくいうぼくも、密かにアダルトグッズを持っていたりするし。男からエロを切り離すことなんて、土台無理な話なのだ。
「そういう意味では、下野くんはああいう物に興味はあったりするの? 女友達も多いみたいだし、別にいらないように思えるけれど?」
「うぇいうぇい、鹿騨くん~。いくらおれが女慣れしてるからって、そう簡単にドッキングできるわけじゃないんだぜ~?」
ドッキングって。直接エッチとか言われるよりはマシかもしれないけど、ちょっと表現が古くない?
「だいたいここ、そういうのに厳しいじゃん? 夜遅くまで外出できないし、相部屋だから自分の部屋にも連れ込めないし、色々と難しいんだよね~」
でも経験はないとまでは言わないあたり、どこかで女の子とヤってはいるんだろうなあ。
「じゃあ、凛奈ちゃんに興味自体はあったと?」
「ありありだね~。ていうか、あんなよく出来たラブドールを見て興奮しない方がおかしくね? むしろ、男ならぶっちゃけ入れてみたくならね?」
いや、うん。わかるけどさ。その気持ちはよくわかるけど、もう少し発言を控えてほしい。エリカ先輩にものすごく睨まれているから!
「ごほんごほんっ。えーと、次は諸星くんに質問したいんだけど」
咳払いしつつ、ぼくは諸星くんに向き直る。
「諸星くんは、凛奈ちゃんのことをどう思っていたの?」
「俺? まあ、入れてみたいか入れたくないかで言えば、入れてみたいけど……」
いや、そこまで言う必要はないからね? エリカ先輩の顔も険しくなる一方だから。
そんなエリカ先輩の射抜くような視線に冷や汗を流しつつ、ぼくは質問を続ける。
「……も、諸星くんは小野田くんと同室なんだよね? じゃあ実際に凛奈ちゃんにも触ったことは?」
「あー、一度だけ。小野田に『触ってみる?』って訊かれたことがあって、その時に」
「触ってみて、どうだった?」
「どうって、まあすげえとは思ったよ。柔らかくて、本当に人肌に触れているような質感だったし。正直、俺もめちゃくちゃ欲しいって思った」
「なるほど……」
などと頷いてみたものの、内心では少し落胆していた。
三人の話を聞く限り、小野田くん──ひいては凛奈ちゃんに嫉妬を抱いているようには見えなかったからだ。
まあこの中に犯人がいるとして、その犯人がぼくたちの前で動機を語るとは思えないし、当然と言えば当然の結果と言えるかもしれないけども。
「で、どんな感じ? 本当にこの中に僕の凛奈をバラバラにした人はいるの?」
話の区切りが付いたところを見計らって、小野田くんが不安げな表情でぼくに訊ねてきた。知り合いに犯人がいるかもしれないのだから、そりゃ穏やかじゃいられないよね。
「んー。正直言って、今の話だけじゃ判断は付かないかな。まだ色々と調査が必要になると思う」
「そうね。私も同意見だわ」と、エリカ先輩。
「気になる点はいくつかあったけど、それはここで確認が取れるものではないし、とりあえず三人の聴取はこのくらいでいいかもしれないわね」
「それって、俺たちはまだ容疑者のままってことですか……?」
いかにも不満たっぷりに顔をしかめて言う諸星くんに、エリカ先輩は涼しい顔で「そうよ」と相槌を打つ。
「現状、あんたたち三人が怪しいのは変わりないもの。今は保留というだけよ」
「なんでこの人、さっきからやたら態度がでかいんだ……?」
どこか呆れたように呟きを漏らす諸星くん。ぼくからしてみたら、エリカ先輩の態度が不遜なのはいつものことなので、もはや日常でしかない。むしろしおらしいエリカ先輩なんて、ちょっと物足りないくらいである。いよいよもってぼくも、剛ちゃんと同じMの扉を開きつつあるのかもしれない。
「ま、なんにせよ、これで一旦解散にしましょう」
パンパンと手を打ち鳴らしたエリカは、そのままぼくとみずきち、そして剛ちゃんに視線を向けて言う。
「私は私で色々調べてみるから、由太郎たちも各自で調査を進めなさい」
「わかりました」
「オッケー♪」
「言われるまでもない」
エリカ先輩の命令に、ぼくたちは三者三様に首肯した。
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