プロローグ



 僕の時間は、あの日からずっと止まったままだ。

 妹が両親を殺したあの日から、ずっと、ずっと、ずっと。

「……そっか。結局お兄ちゃんは、そっちを選ぶんだね」

 死に絶えた両親の横で、妹が薄く笑みを浮かべる。

 どこか失望したように、瞳の奥を曇らせながら。

 いつからだろう、妹がこんな風に壊れてしまったのは。

 どうして気が付かなかったのだろう、妹がここまでおかしくなっていたことに。

 なにもわからない。わからないことだらけだ。

 両親を殺した理由も。

 ここまで狂ってしまった原因も。

 血だらけの姿で笑っていられる、その心境すらも。

 なにも。

 なにも、わからない。

「お兄ちゃんにはわからないよ。わたしの考えなんて」

 妹が僕にそう冷たく言い放つ。

 一生治ることのない深い傷を、僕の心に残すかのように。


「お兄ちゃんなんかに、わたしの気持ちなんてわかるはずない」


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