101号室 出会い
その後、何時間経ったのだろうか。
公園はすっかり夕焼け色に染まり、
オレンジ色の地面に黒い影を色濃く映し出していた。
楽しそうに遊んでいた子供たちは、カラスの鳴き声と共に家に戻り、
ベンチに男が1人座っているだけの状態になった。
まぁ、正確には2人なのだが…。
ここはリンドウとも近いので俺は比較的安定して人間化をすることが出来ていた。
彼はあと何時間ここでボーッと座っている気なのだろうか。
すっかり静まり返った公園。
風の音さえ聞こえないこの公園で微かだが鳴き声がする。
「みゃ…。みゃ…。」
俺はだいぶ前からこの鳴き声に気づいていたが、彼には聞こえないのだろうか。
そう思っていると、彼はふと顔を上げ辺りを見回し始めた。
彼は立ち上がり、その鳴き声の主を探す。
ようやく、彼は座っていたベンチとは逆側にあるベンチまでやって来て
声の主を発見した。
ベンチの後ろに生える雑草の中、小さな声で鳴いていたのは
子猫だった。
彼は驚いた顔をしながら、子猫に近づく。
そして優しく、
「どうしたの?怪我してるのかい?」
そう言いながら子猫をそっと抱くと、
子猫は生まれたばかりなのか抵抗もしないで抱かれた。
薄汚れた猫は何色なのか分からないが、
そのまま彼はスマホを取り出すと何か検索をし始める。
彼のスマホを覗き込むと、どうやら動物病院を探しているようだった。
五分ほどして、動物病院が見つかったのだろう。
彼は子猫にちょっと待ってねと言いながら、
羽織っていた上着を脱ぎ、子猫を包むとそのまま抱き抱えながら歩き始めた。
俺は人間化の限界が来たので歩き始めた彼を眺めながら、マンションに戻った。
数時間して戻ってきた彼は子猫は抱えておらず、
上着も持っていなかった。
子猫が気に入ってしまったのだろうか。
いつもなら家に帰ってくるとすぐにゲームを始めるのだが、
彼はそのまま床にちらばったゴミたちをおもむろに片付け始める。
俺は驚きが隠せない。
親友からの電話1本でこんなにも人は変わるものなのか・・・。
3時間後、
見違えるほど綺麗になった部屋を彼は満足そうに見下ろしていた。
次の日から101号室には、
何やら小さめのベットやペット用のトイレらしきものが置かれ、
ついにはキャットフードなるものが台所に登場していた。
もしや…。
この状態から察せない者などいないだろうが、
想像に容易いこれから起きる出来事がやってきたのは、
3日後だった。
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