101号室 理由

「どうして、撮らないのかと聞かれましたよね」


「えぇ、聞きました。」


「撮らないというよりは撮れないが正しいです。僕は以前は写真が大好きでした。

ですが、今は何を見てもいいなぁって思えないんです。

カメラのレンズを通す前はいいなぁって思えるこの公園の木々たちも

カメラを構えると色褪せて、どうでも良いものに見えるんです。だから切れない。」


彼は少し苦しそうな表情でそう切り出した。


「でも、カメラを通す前は良いと思えるんでしょう?

躊躇わずシャッターを切ってみたら、案外いい写真が撮れるんじゃ?」

そう聞くと彼は首を振った。


「カメラはもう二度と訪れない一瞬を切り取るんです。

カメラを通して見る世界は一瞬の永遠の輝きを持ってないといけない。

矛盾してますね。」


「一瞬の永遠?」


「子供の写真って、たくさん撮りますよね」

彼は公園で遊んでいる子供たちをそっと指さしながらそう唐突に言ってきた。


指を指した先に目をやると子供が遊んでいる様子をカメラや携帯で

嬉しそうに撮っている親たちがいた。

俺は子供の写真をたくさん撮るのか分からなかったが、

そういうものなのかもしれないと思い、適当に頷く。


「でも、大人になると思い出になるような事がない限りは写真なんて撮らない。

まぁ、芸能人とかなら別ですが。」


「ほう…?それが一瞬の永遠と関係が?」


「みんな分かってるんです。子どもの姿が永遠じゃないことを、

だから写真を残すことで永遠にしたいんです。

一瞬しかない永遠の輝きとして。」


「なるほど。だから、カメラを通して見る世界は

一瞬の永遠の輝きを持つ必要があると。」


「はい、だから僕には撮れない。」


「なぜ?」




「僕自身が残したいと思える

  一瞬の永遠の輝きを

 見つけられないからです。」



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