101号室 親友 

声的に相手は男だな。


ゲームをしている時は宅急便が来ても出ないような彼の動きを止める相手だから、

女かと思ったが違うらしい。



「なんだよ。」


しかし、


彼はそのぶっきらぼうな態度を崩すつもりは無いと

表明するかのような答え方しかしない。



怒らせたいのだろうか。

そんな彼の応答にヒヤヒヤしながらも俺は静かに会話に耳を傾けることにした。


「なんだとはなんだよ!せっかく親友がかけてやってるのにさぁ。」


「忙しいんだよ」


「忙しくないだろ。おふくろさんから全部聞いたぞ。バイトも全部やめてしまったそうじゃないか」


「はぁ、やっぱり。あのくそばばあ。」


「おい、そういう言い方はやめろよな〜」


「で、お前もあのくそばばあと同じく僕に説教するわけ?」


「いや、そういうわけじゃない。」


「じゃあなんだよ。」


「俺はさー、お前が新人賞取ってさ、すげー奴だって思ってたんだよ!

ずっと写真家として成功することが夢って言ってたからよぉ。

そのまま俺なんか手を伸ばしても届かない世界に行っちまうんだって思った。

ちょっと寂しかったけど、応援してたんだ。」


「で?夢も叶えられずに引きこもってる俺をバカにでもしに電話してきたのか?」


「違うって。まぁ、聞けよ。数ヶ月前、お前の実家のラーメン屋の前を久しぶりに通りかかったんだ。そしたら、お前が働いてるのが見えた。驚いたよ。同時になんでだって思った。だってあの店なんにも変わってなかった。それで分かったんだ。

お前は夢を叶えられていないんだって。だから、久しぶりに話したかったんだよ。

なにか理由があるんじゃないかってさ。」


「理由・・・?理由なんてねぇよ。才能がなかっただけだろ。」




「それは違う!!」


耳をそばだてて聞いていた俺は突然叫ぶ電話越しの声に驚き、仰け反る。


「うっせぇな・・・。なんだよ。」


同じく聞いている彼も耳が痛そうに渋い顔をしている。


「新人賞とった写真。まだちゃんと飾ってあるか。」


「は...?あ、あぁ。まだある。」


彼は乱雑な部屋の中で唯一綺麗にしてある棚をチラりと見やる。


「それを最初に見た時さ、俺思ったんだよ。お前には才能があるって。

俺だって、写真家の世界がそんなに甘い世界じゃないことくらい分かってるさ。

そんな世界に飛び込む親友を才能がないとか思いながら応援出来るわけないだろ!」


「お前・・・。」


「なんだ・・・?」



「変わってないな。」


「なんだよ!そこは良い奴だな!とかにしろよ。期待しちゃったじゃんかよ。」




「良い奴だな。」


「い、ま!?価値うっす〜!!」


「ははっ」


「笑うなー!もう・・・。なんだ、笑えるじゃんかよ。夢追いかけろよな。」


「でも、もう三十路だぜ?」


「関係ねぇよ。実家のラーメン屋大きくするんだろ?」


「そんなこと僕言ってたか?」


「言ってたぞ。写真家として成功して店大きくして、親の苦労少しでも楽にしてやるんだって。」


「そうか・・・。光、ありがとう。」


「え、あぁ・・・。俺だって連絡全然しなくてすまなかった。」


「お前が謝るの似合わねぇな」


「うるせ」


電話を切った後、俺は彼の表情を見た。


どこか爽やかで覚悟を決めたようなその晴れやかな顔は今までに見た事がなかった。

彼はそのままゲームの電源を落とし、

しまい込んで軽くホコリの被ってしまったカメラを取りだし、



以前のように丁寧に手入れし始めた。

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