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 しかし、そんな前向きな意気込みとは裏腹に。

 その頃使っていた姉のスマートフォンには、陰湿ないじめを思わせるメッセージが何件も届いていた。

 後に、遺品となったスマートフォンを調べたとき。

 メッセージ自体は消されていたのだが。

 姉がわざわざ撮影、記録し、残していたやり取りの画像を見て。

 家族は絶句した。



「……亡くなったんですか」

「うん。五年くらい前の、二月五日。卒業も間近って時に、近くのきったない川に飛び込んだ」


 視線を地面に落とす藤堂。

 彼の足取りはいつの間にか重くなり、気付けば久川も同じ歩調になっていた。


 袖をドアノブに引っかけるような間抜けをする姉だが、実は結構図太いところもあった。

 もっと幼い頃は、弟の誕生日ケーキに乗ったイチゴをこっそり横取り。

 ついた嘘がバレた時には「うん、嘘だよ」とあっさり種明かしをした。

 度胸があった、とも言えるだろう。

 メッセージのやり取りを画像で記録し、残していたくらいだ。

 時期が来たら、この画像を両親に見せて、法的に仕返しするつもりだったのかもしれない。



「でも姉ちゃんは死んだ。それが俺たち、ずっと疑問で……モヤモヤしたまま一年くらい経った頃にさ。姉ちゃんのクラスメイトが一人、家に来たんだ」



 そのクラスメイトは、姉が亡くなった後の、校内の様子も知る男子生徒だった。


 彼も元々、絵を描く人間だったのだが。

 藤堂の姉がいじめられているのを見て、やめてしまったらしい。

 藤堂の姉が亡くなった後、後悔と恐怖に苛まれたのか。

 同級生が恐ろしくなり、大学にも行くことができず。

 今は家に引きこもっていると話した。


 彼は藤堂の家に来た理由を、おどおどした様子のまま、長い時間をかけて近況を話してから切り出した。


「彼女が亡くなった理由、ご存じですか?」


 それは、知りたいから聞いたという風ではなく。

 もし知らないのであれば伝えた方が良いだろうと思い、ここに来た。

 という感じの尋ね方だった。



 久川は、何も聞かなかった。

 お姉さんが死んだ理由って?

 という疑問の言葉は、藤堂の傷を抉る問いなのだと、すぐにわかったから。


 問いは、知るべきことにするべきだ。

 藤堂の姉が死んだ理由は、久川が知るべきことではない。

 少なくとも久川自身はそう考えた。


「俺もその話、聞いたんだけどさ。マージで腸煮えくり返ったよ……そいつらの名前を聞いて、一生働けない体にしてやりたいって、思ったんだ……」


 藤堂が、砂地に膝をついた。

 今までの歩調からなんとなく察していた久川が、倒れようとしていた藤堂の体を支えると。

 彼の口から、苦しげに呼吸する音が聞こえた。


 嫌な予感があった。

 だが、そんな現実味のないことが、事実だったとして。

 自分に何ができるだろうか?


「だ、大丈夫ですか……少し休みましょうか」


 動揺の表情を浮かべる久川に、藤堂は額に汗を浮かべながらも、薄い笑みを浮かべて。

 震える言葉で問いかける。


「なあ、久川……お前は、なんで死のうとしたんだよ」


 藤堂の言葉が、久川の胸を突いた。

 あまりにも強い衝撃に、両目から涙が溢れ、こぼれ落ちる。

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