2P

 そんな時、突然藤堂が勢いよく起き上がる。

 同時に藤堂の首元で、リングの通されたネックレスが光を反射して輝いた。


「な、なんです……」


 驚いてから、怪訝な目を向ける久川。

 だが藤堂の視線は久川の先に向いており。

 疑問に思った久川が振り返ろうとした時、藤堂に突き飛ばされ、砂の上をまた転んだ。

 直後に聞こえる、藤堂の悲鳴。


「いってえ! こんの、離れろ!」


 立ち上がり、何かと格闘している藤堂を久川が見上げると。

 藤堂の腕に、細長い何かが巻き付いているのが見えた。

 細長く、砂と同系色の見た目をしたそれは、藤堂の腕に絡みつき。

 ほどよく焼けた素肌を離さないとでも言うかのように、藤堂の腕に噛みついていた。


「へ、蛇!?」


 慌て立ち上がり、藤堂を助けようと近づく久川に、藤堂は近づくなと言わんばかりに腕を振り回した。

 同時に蛇は吹き飛ばされ、砂地に叩きつけられる。


 警戒し、後ずさる二人だったが。

 蛇は吹き飛ばされた衝撃で頭をふらつかせてから、砂の中へ潜るように逃げていった。


「くそ、いってえなあ……逃げるなら最初から襲ってくるなってーの」


 軽い口調で悪態をつく藤堂だが。

 その腕からは血が、二本の線を作るようにして流れ出ている。


「藤堂さん、止血! えっと、ど、どうしよう!」


 流れ続ける血液に気が動転する久川を、藤堂は目を丸くして眺めてから。

 なだめるように静かな口調で言った。


「あー、俺わかるから、大丈夫。手伝ってくれるか?」


 数度頷き答える久川に、藤堂は「ありがと」と答え、着ていた白シャツの袖を引っ張るように指示した。



 藤堂の指示を受けながら。

 久川は引きちぎったシャツの袖で、出血した箇所を押さえるように締め付け、圧迫する。


「よしよし、これで大丈夫じゃねえかな?」


 そう言って藤堂は久川に笑顔を向けた。

 その笑顔に対し、久川は気まずいのか、再び視線を逸らす。


 本当はこの時、久川はお礼を言うべきだった。

 あの時、藤堂が突き飛ばしてくれなかったら。

 噛まれていたのは久川だったかもしれないからだ。


 だが久川はそれをしなかった。

 日々勉強漬けだった久川は。

 校則を破って髪を染め、教師の説教にも動じず、似たような仲間を寄せ集めて、教室の中で堂々とはしゃぎ、笑っている。

 そんな藤堂が、はっきり言ってしまえば嫌いだった。


 だから、そんな相手に礼を言うのがなんだか癪で、何も言わずに彼は立ち上がった。


「おいおい、どこ行くんだよ?」

「近くに建物があるかもしれないので、探してきます」

「置いて行く気かー? ひっでえなあ」


 そう言いながらも、藤堂は笑っていた。

 立ち上がりもしない。

 藤堂はまだ、ここから動く気はないようだ。


 さすがの久川も、負傷した藤堂を一人残していくのは酷な気がして。

 渋々その場に座りこんだ。


「じゃあ、血が止まるまで待ってます」

「サンキュ」

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