夜空に瞬く星のように
深海 泳
1P
学校の階段を数段飛ばしに駆け上がり。
鉄扉に全部の体重を乗せて、体当たりしながら開ける。
普段は立ち入り禁止にされている屋上の、異様に低いフェンスの向こう側で。
あいつはイヤホン越しに何か聴きながら、突っ立っていた。
なんで、あんなところに……!
慌てた俺は、あいつのいるところまで全速力で走った。
冬の訪れを感じさせる強い風が、俺たちの髪を逆さに撫で上げて。
あいつの片足が、屋上のコンクリート床から宙に伸ばされた瞬間。
ようやくそのすぐ後ろまで駆け付けた俺の腕も、あいつの歩幅と同じくらい伸びた。
確かに俺は、腕を掴んだ。
けれど、世界は無感情な顔で、俺たちを重力という名の透明な縄で引っかけながら地上へと引きずり落とす。
同時に落下する俺たちの速度は。
富士山近くにある遊園地のジェットコースターよりもずっと速くて、怖かった。
*****
一瞬、何が起きたのか、わからなかった。
落下した、かと思えば柔らかい地上に転んでいて。
気付けば湿気のない砂に全身をまみれさせていた。
彼、
「これが、地獄?」
なんか、思っていたよりも平和な場所みたいだ。
そう思っていると、彼の後ろで吹き出すような笑い声が聞こえた。
久川は飛び上がるように驚き、振り返る。
「地獄、つーか……砂漠だろ」
見れば、そこにはなぜか、久川が苦手だと思ってきたクラスメイトの
「藤堂さん!? なんで……というかここ、どこです?」
動揺する久川に、藤堂は衣服に付いた砂を埃のように手で払い、立ち上がってから苦笑交じりに答える。
「お前、屋上から飛び降りようとしただろう? あの時俺、腕掴んで、引き留めたつもりだったんだけど……」
久川は数秒ほど、口を開けたまま硬直してから。少し気まずそうに視線を逸らして言った。
「全然、気付かなかった」
「そりゃお前、イヤホンつけてたからな。今度やる時は外しとけ」
そう言って笑う藤堂に、久川は小さく言い返す。
「……余計なお世話」
それから二人は、ポケットに入っていたはずのスマートフォンを探ったが、見つからず。
落としたのだろうかと、二人して手触りの良い砂の中を探ったが。
結局スマートフォンは見つからなかった。
「参ったな……これじゃあどこなのかわかんねえな」
天高く昇る太陽の光を見上げてから、藤堂は諦めたように大の字になって砂の上に寝転んだ。
一方の久川は、どうすれば家に帰ることができるのか、自分たちを救助してくれる人は現れるのだろうかと不安に思い。
それから自嘲気味な薄い笑みを浮かべて、ため息を吐いた。
自ら死を選んでおきながら、助けは来るのだろうか、なんて。
久川は自分の中にある矛盾に、つばを吐きたくなった。
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