金髪小学生吸血鬼の、小さな恋。【お隣の吸血鬼くん】

『お隣の吸血鬼くん』の、ifストーリーです。

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054884748289




 え、ええと。私の名前は、竹下たけしたれん

 青い目でブロンドヘアーをしていて、身長は少し低めの、小学5年生の女子。

 そして、吸血鬼です。


 あ、吸血鬼と言っても、映画や小説に出てくるような、怖い吸血鬼じゃないです。

 今やこの世界では、吸血鬼は立派に人間と共存しているんですから。


 でも中には、悪い吸血鬼もやっぱりいて、この前は吸血鬼が人質を取って喫茶店に立てこもるなんて事件も起きました。

 人間の中にも、吸血鬼を悪く言う子もいて、私も最近まで吸血鬼であることを理由に、男子からいじめられていたんです。


 でもでも、それを助けてくれたのが、少し前に転校してきた、同じクラスの水城八雲くん。

 八雲くんはパッと見、天使みたいに可愛い男の子。そして優しくてしっかり者で、私をいじめていた男子にやめるよう、ガツンと言ってくれたの。

 あの時は、胸がキューンってなっちゃった。


 そして、そんな八雲くんには好きな人がいるの。

 相手は、八雲くんのお姉さんのお友達の、高校生の女の人。

 明るくて可愛くて、私とは正反対の素敵な人。


 で、色々あって、私は八雲くんの恋を応援することにしたの。

 八雲くんに、私にできることなら何でも言ってって言ったんだけど。最近二人が仲良くしている姿を見ると、胸の奥がズキンってなる。


 応援するなんて言っちゃったけど、本当にこれで良かったのかなあ。



 ◇◆◇◆



 私は一人で、とぼとぼと通学路を歩いて帰ってる。

 頭に浮かぶのは、さっき「また明日」って笑顔で言ってくれた、八雲くんの姿。


 最近事あるごとに考えるのは、八雲くんの事ばかり。

 この気持ちの正体に気づかないほど、私は鈍感じゃない。

 私やっぱり、八雲くんの事が好きなんだ。


 八雲くんの恋を応援するって言ったのに、八雲くんの事を好きになるなんて、どうかしてるよ。


 私、どうすればいいんだろう……。


「レーンちゃん」

「ひゃあっ!?」


 不意に後ろから肩を叩かれて、振り返るとそこにいたのは高校の制服を着て、眼鏡をかけたセミロングの髪のお姉さんだった。


「さ、皐月さん」


 彼女は、水城皐月さん。八雲くんのお姉さんなの。

 ご両親を亡くした八雲くんは、高校生のお姉さんとアパートで二人暮らしをしている。

 皐月さんは八雲くんの事を溺愛していて、その友達の私にも優しくしてくれる素敵なお姉さん。


 そんな皐月さんは、私の顔を覗き込んでくる。


「今日は八雲と一緒じゃないの?」

「は、はい。今日はちょっと」


 言えない。

 八雲くんの恋を応援するって言ったのに、その八雲くんのことを好きになった事が後ろめたくて一緒に帰らなかったなんて、口が避けても言えないよ。


 こういう時、どうするのが正解なんだろう。


「あ、あの、皐月さん」

「ん、何?」

「好きな人がいる人のことを好きになった時って、どうすればいいんでしょうか?」

「えっ?」


 驚いた顔をする皐月さん。

 って、私は何を言ってるのー!


 私のバカ! いくら悩んでるからって、八雲くんのお姉さんに相談するなんておかしいよ!


 でも皐月さんは、キラキラと目を輝かせ初めた。


「なに、恋の相談?」

「ええと……ごめんなさい、やっぱりいいです。忙しいのに、時間をとらせるわけには……」

「なに言ってるの。私と恋ちゃんの仲じゃない、遠慮はいらないわ。任せて、こう見えて私、恋の相談にのるのは得意だから」

「本当ですか?」

「私は本が好きでね。恋愛小説だっていくつも読んできたんだから、恋愛マスターと言っても過言じゃないわ」


 ドンと胸を叩く皐月さん。

 恋愛マスターだなんて凄い。さすが高校生の皐月さん、小学生の私なんかより、ずっと大人で頼りになるよ。


 どうしよう。恋の相手が八雲くんだからやっぱり気が引けるけど、恋愛マスターに相談するチャンスなんて他に無いかも。

 だったら。


「お、お願いできますか」

「もちろん、私に任せなさい」


 ニコッと笑う皐月さん。

 やっぱり素敵。頼りになるよ。


 ちなみに、これからしばらく経った後に八雲くんが。


──姉さんの恋愛ベタにも困ったものだよ。好きって告白されたのに、友達としての好きと勘違いするような鈍感クイーンなんだから。それでいて本人は鈍い自覚がないんだから、質が悪いよ。


 って言ってたけど。

 それはまた別のお話。



 ◇◆◇◆



 私達は近くのカフェに場所を移して、早速相談にのってもらうことにした。


「あの、友達の話なんですけど」


 一言発して、すぐにしまったって思った。

 つい照れ隠しで友達の話ってことにしたけど、こんなの誤魔化すための常套句。

 私の事だって、絶対にバレちゃったよー!


「友達の? 恋ちゃん、友達の悩みを真剣に考えてるんだ。優しい」


 あれ、バレてない?

 いやいや、気づいてないフリをしてる可能性もある。


 けどそう考えていたら、皐月さんはふと何かに気づいたような顔をする。


「ね、ねえ。もしかしてその友達って、八雲だったりする? 八雲の好きな人に、好きな人がいるとか、そ、そういう話?」

「えっ? ち、違います! 全然違いますから!」

「良かったー。話の腰を折っちゃってごめんね。べ、別に八雲に好きな人がいたっていいけど、将来私の義妹になるかもしれない人が既にいるのかと思うと、つい」


 皐月さん、話が飛びすぎです。

 実際に八雲くんには好きな人がいて、それが皐月さんのお友達ってことは、伏せておいた方が良さそうだなあ。


「そ、それで、友達の話なんですけど……」


 誰のことかバレないよう隠しながら、恋を応援するって言っておきながら、その応援すべき人のことを好きになっちゃったことを話した。


「なるほどね。応援するつもりが、好きになっちゃったと」

「これってやっぱり、裏切りになっちゃいますよね?」

「ううん、そんなことないわ。事情はどうあれ、誰かを好きになることのどこがいけないって言うの?」


 てっきり怒られると思ってたのに。

 返ってきた答えに、目を丸くする。


「好きになっちゃったのは、仕方がないことよ。協力できなくなるのは申し訳ないかもしれないけど、相手だってきっとわかってくれるはずよ。と言うかそもそも、それで裏切りだなんて言うような奴なら、私なら好きにならない。ぶっ飛ばしてる」

「そ、それは大丈夫だと思います。八雲く……相手の男の子は、そんな事言う子じゃないですから」

「まあ複雑にはなっちゃうけど、好きになるのは悪いことじゃないわ。その友達の子に、伝えてくれるかな。君は好きでいてもいいんだって」

「皐月さん……」


 そうなのかな。私、八雲くんのこと好きでいてもいいのかな。

 勝手に応援するって言っといて、勝手に好きになっちゃったけど。皐月さんの言葉で、救われた気がした。


 けど、気になることがもう一つ。


「あの、それじゃあ、吸血鬼から好かれるのって、どう思いますか?」


 実はずっと気になっていた、もう一つの悩み。

 私は少し前まで、吸血鬼であることを理由にいじめられていた。

 そんな子に好かれて、気持ち悪いって思われたらどうしよう。

 八雲くんに限ってそれはないって思うけど、やっぱり気になっちゃう。


「え、その友達の子も、恋ちゃんと同じ吸血鬼なの?」

「そ、そうなんです。実は吸血鬼だと、時々パートナーの血を吸う事もあるんです。あ、吸うと言っても、本当に少しだけで……」

「分かってる。献血みたいなものだって、前に友達の吸血鬼から聞いたことがあるわ。けど、血を吸われるねえ」

「やっぱり、気持ち悪いですか?」


 ドキドキしながら待っていると、皐月さんはふうっと息をつく。


「前に、とんでもなく悪い吸血鬼から、無理矢理血を吸われた事があったわ。手に噛みつかれて、少量だったけど吸われて。気持ち悪くて吐き気がして、まるで悪夢を見てるみたい。本当に最悪だった」

「そんな……」


 返ってきた答えに、愕然とする。

 最悪と言う答えもそうだけど、吸血鬼のせいで皐月さんがそんな目にあっていたことも、ショックだった。

 けど。


「でもね、そんな私を助けてくれたのも、吸血鬼だったの。そいつは同じクラスの男子だったんだけど、相手の吸血鬼と同じように私の血を吸ってパワーアップして、守ってくれたわ」

「その人も、皐月さんの血を吸ったんですか?」

「うん。だけど、感じ方が全然違ったわ。そいつのは嫌な感じは全然しなくて、指から血を吸ったんだけどなんて言うか、キスでもされてるような感じ?」


 キスですか!?

 予想外の言葉に、ボンッと頭が爆発する。

 皐月さんも恥ずかしいのか、顔を赤くしてそっぽ向いてる。


「ま、まあとにかく、何が言いたいかって言うとね。血を吸われて構わないって思うか嫌だって思うかは、相手によりけりってこと。例えば恋ちゃん、ものすごーく嫌いな相手と手を繋げって言われたらどう思う?」


 嫌いな相手と?


 頭に浮かんだのは、私をいじめていたクラスメイトの男の子。

 その子と手を繋ぐのを考えてみると……。


「嫌です。前に先生がきらいな男の子と私に、仲直りの握手をさせようとしたことがありましたけど、すっごく嫌でした」

「最悪ね。形だけの握手をさせたって仲直りなんてできないってのに、それで解決したつもりになってるんだもの。けど握手をする相手が、友達だったらどう思う? 例えば、八雲とか」

「や、八雲くんですか!?」


 想像したら、今度は頭からぷしゅ~っと湯気が出ちゃいそう。


「い、嫌じゃないです」

「それと同じ。吸血だって、きらいな相手にされたら嫌だけど、好きな相手なら嫌じゃない。だから、あんまり気にしなくて大丈夫よ」


 皐月さんは手を伸ばしてきて、私のブロンド頭を優しく撫でる。

 やっぱり、相談して良かった。


「それにしても、恋ちゃんと恋バナができるなんて思わなかったわ。ああ、恋ちゃんみたいな妹がほしいわ。そしたら毎日、可愛がれるのに」

「い、妹? 私がですか!?」


 それってつまり、私が八雲くんとくっついて、義妹になるっていう……。

 ち、違う。そういう意味で言ったんじゃないから!


「さ、皐月さんには、八雲くんがいるじゃないですか」

「もちろん八雲も可愛いし、毎日お手伝いしてくれるし、優しくて天使みたいな、最高の弟だけど……」


 皐月さん、ブラコン全開だ。


「でも最近、ちょっと素っ気ない所もあるのよね。私よりも、私の友達の男子と仲良くしてるしさ。やっぱり男の子同士の方が、気が合うのかなー。あー、八雲が取られちゃうー!」

「落ち着いてください。八雲くんはきっと、皐月さんから離れたりしませんから」


 なだめながら私は、恋の相手が八雲くんだってことは、絶対バレちゃいけないって思った。


 けど、好きになるのは良いんだよね。

 この恋が実るかどうかは分からないけど、頑張ってみたいな。


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