雪女ちゃん、先輩と同室に泊まる、【アオハル・スノーガール】

『雪女ちゃん、彼氏と旅行する』の続きです。




 花火大会を満喫した私達。

 本当言うとドキドキしすぎて、花火を見るどころじゃなかった時間も多かったけど、やっぱりすっごく楽しかった。


 そんな花火大会も終わって、旅館に帰ったら。


「直人、千冬ちゃん、花火どうだった?」

「あ、白塚先輩」


 ロビーにいたのは、同じ学校で1学年上の、白塚宝先輩。

 同じ部活に入っている、美人で格好よくて凛々しい、素敵な先輩なの。

 で、その白塚先輩。名字は違うけど、実は岡留君のお姉さんで、今回の旅行に同行していた。

 高校生で男女二人だけで旅行させるのはちょっとと言うことで、お目付け役として来てくれているの。


「花火、すっごく綺麗でした。白塚先輩も、一緒に来たらよかったのに」

「ふふっ、本当は私もそうしたかったんだけどね。そしたら直人が、駄々こねちゃうから」

「当たり前だろ。俺だって少しは、綾瀬と二人でいたい」


 岡留君が、プイとそっぽ向いて答える。

 わわっ、そんな風に言われると照れちゃう。

 すると白塚先輩はおかしそうに、クスクスと笑う。


「冗談だよ。私だって可愛い弟と後輩の邪魔をするような、野暮なことはしないさ。だから昼間からは、別行動だったじゃないか」

「先輩は、市内観光をされてたんですよね。どうでした?」

「大いに楽しめたよ。永国寺に行って幽霊掛け軸を見せてもらったり、カッパ伝説がある球磨川に行ったり、実に有意義な時間を過ごさせてもらった」


 行く場所が、白塚先輩らしいや。

 白塚先輩も弟の岡留君と同じ、妖怪マニア。

 旅行に来る前、幽霊掛け軸があると言うお寺や、夏になると結成されるカッパ捜索隊のことを調べては、スケジュールを立てていた。

 と言っても、さすがに行く所が全部、妖怪関係の場所というわけじゃない。

 明日は三人で、観光名所を回ることになっている。


「明日朝から球磨川下りをして、鍾乳洞に行って、大忙しですね」

「秘密基地ミュージアムや人吉クラフトパークにも興味があったけど、とても全部は回りきれそうにないか。気が早い話だけど、来年もまた来て……って、ごめん。来年は二人は、受験生だったね」


 そう言ってるけど、白塚先輩だって現在バリバリの受験生のはずじゃ。

 まあ本人は大丈夫って言って、旅行に来たんだけどね。


「明日が忙しくなるなら、今日はもう寝た方がいいな。ところで宝」

「ん、どうした?」

「本当に綾瀬と、同じ部屋で寝るつもりなのか?」


 白塚先輩のことを、ジトッと見つめる。


 そうなの。私達が予約しているのは、一人部屋が一つと、二人部屋が二つ。

 最初は、岡留君と白塚先輩は姉弟なんだから、二人が同じ部屋に泊まるものだと思っていたんだけど。


「なんだ直人、一人だけ別の部屋で、寂しいのかい?」

「そうじゃないけど、ちょっと心配で」

「私もちょっと気になったんですけど、本当に私が白塚先輩と同室でいいんですか? 姉弟水入らずで過ごした方が良かったのでは?」


 だけど白塚先輩は、首を横に振る。


「何を言っているんだい。千冬ちゃんだけ仲間外れにするなんて、そんな冷たいことできるわけないじゃないか」

「白塚先輩……あの、でもその理屈じゃ、岡留君が仲間外れになっちゃいますけど」

「平気平気。直人はそれで寂しがるような奴じゃないから。……昔はお姉ちゃんお姉ちゃんって言って後ろをついてきてたのに、いつからこんな可愛げがなくなっちゃったんだろうね」

「綾瀬の前で、昔の話をしないでくれ!」


 てっきり先輩の冗談かと思ったけど、否定しないってことは本当なの?

 岡留君の意外な一面を知っちゃった。


「女子と一緒の部屋だと、直人も困るだろ」

「まあ。けどそれはそれとして、俺は綾瀬と宝を二人きりにさせる方が心配なんだが」

「何が心配だって言うのさ。ちゃんと優しくして、千冬ちゃんにとって忘れたくても忘れられない夜にするから」

「待て、いったい何をする気だ?」

「それを聞くのは、野暮というものだろう。千冬ちゃんと二人きりか、楽しみだ」


 何故か目を輝かせている白塚先輩とは逆に、岡留君の顔色が悪くなっていく。

 そして私も、失礼ながら少し身の危険を感じていた。


 ね、寝るだけですよね。

 なのにどうして、そんなにいきいきしてるんですか?


「やっぱり心配だ。綾瀬、これを肌身放さず持っているんだ」

「これって、防犯ブザー? どうしてこんなの持ってるの?」

「もしもの時のために用意しておいた。宝に何かされるって思ったら、迷わず押すんだ」

「私はいったい何をされるんですか!?」

「ふふふ、安心して。嫌がるようなことはしないから。嫌がるようなことは、ね」


 妖艶な笑みを浮かべる白塚先輩に、背筋がぞくぞくする。

 私雪女なのに、寒気がするってどう言うこと?


 はたして私は今夜、ぐっすり眠れるのでしょうか?

 朝を迎えた時、溶けちゃってないかが心配です。



 おしまい。


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