05話.[知っておいてよ]
「いえーい」
「御崎」
「あ、なんでこうなっているのかと言いたげな顔をしているね?」
「当たり前だ、気になっている高井と行動しなくてどうするんだよ」
自分が考えた結果とは真反対の状態だった。
いちゃいちゃを見ることになるどころか、俺達が別行動をするなんて思っていなかった。
鴻巣も二人きりがいいなどと言っていたくせにあっさりと御崎に言われて言うことを聞いてしまったのだから問題だと言える。
やはり高井と鴻巣の間にはなにかがあったのだろうか?
「んー、だけど鴻巣ちゃんも『高井君とちょっと遊んでくる』と言って離れちゃったからなぁ」
「後悔しても知らないぞ」
「大丈夫だよ、それより笑って笑って」
写真を撮るときに笑うのが苦手な自分としてはどうしても不自然なものになる。
あと俺なんかと撮ってどうするのか、もしかしてストレス発散をするために、滅茶苦茶にするためにしているのか?
「前はあんなことを言っておいてなんだけどさ、稲多君って意外と付き合いがいいよね。なかったことにして終わらせようとしないというか、嫌そうな顔をしたりもしないからさ」
「付き合いがいいのかも、嫌そうな顔をしていないのかどうかも分からないぞ」
否定してくれたばかりだからこういう風に余計なことを言わないと不安になってしまう。
本当に俺って情けないよな、でも、この先変わることでもないから受け入れてなんとかしていくしかないわけだ。
結局、俺がどれだけ意識して行動しようと根本的なところが足を引っ張って相手には迷惑をかけてしまうのだろう。
いやもう相手が二人みたいな人間でなければどうなっていたのかという話だった。
「じゃあ私はそうやって思っているって知っておいてよ」
「そうか。まあ、また怒られるような結果になると思っていたから全く違っていて安心できたよ」
「この前のは私もちょっと勝手だったし……」
「でも、このままじゃ駄目だ」
高井のことが気になっているなら俺なんかといる場合じゃないだろとぶつける。
彼女はなんとも言えない顔で黙っていたが、割りとすぐに「そうだね」と言うことを聞いてくれそうだった。
「あ、だけど見てほら、二人は楽しそうだから邪魔するのも申し訳ないな」
「じゃあ……なにか他のことでもするか?」
「そうだねっ、せっかく遊びに来ているんだから楽しもうっ」
毎回そうだがいい笑顔だな。
でも、とことん冷たい顔だってできるし、大丈夫だと安心して近づいたらぼこぼこにされてしまいそうだ。
そうならないように行動すればいいのだが、そうならないようにと行動しても相手からしたらどうかは分からないわけで、この先も関わっていけるならそれだけ微妙になることも多そうだった。
「あ」
自分で言ったからにはやっている感を出すために近くにあったUFOキャッチャーを適当にやってみたら取れてしまった。
「んー、やっぱりこういうのは難しいなぁ」
「なあ御崎、これやるよ」
「えっ? な、なんでいきなり?」
「いやほら、俺がこんなにファンシーな物を持っていたら微妙だからさ」
鴻巣でもよかったのだがあちらも高井が頑張った結果なのか既に沢山持っていたのでそれなら御崎にとなっただけだ。
振り向かせたいとかそういうことではなく、いまも言ったように俺には似合わない物だから受け取ってくれなければ困ってしまう。
「こ、鴻巣ちゃんにあげたらいいじゃん」
「別に無理ならいいよ」
「……じゃあ貰っておく、可愛いぬいぐるみだしね」
よし、これでやった感は出せたから彼女の近くにいればそれでいいはずだ。
ちゃんと相手をして、できることは聞いておけばこの前みたいなことになることはない。
「御崎、結局高井とはどうなんだ? 別に気になっているとかじゃないのか?」
「……少しでも気になっていなかったら抱きしめさせないと思うけど、稲多君は私が複数の男の子に簡単にやらせるとかそういう風に見ていたの?」
「いや、そんなことはないぞ」
「だから……うん、義一のことは結構……」
ほう、こうして高井からではなく彼女から聞けると全く違うな。
これでもっと自然に応援してやることができる、これなら無駄に終わるということはないから最高だ。
まあ、何度も言っているように俺が余計なことをしなくてもこの二人は勝手に上手くやれてしまうが、そこは友達として動きたくなるものだから仕方がないと片付けるしかない。
「よう、そろそろ四人で行動しようぜ」
「そうだね」
このときを待っていたような……そうではないようなという感じだ。
正直、御崎と最後まで問題なく過ごして解散に、という流れが一番だった。
いまから四人でとなるとまたお金を多く消費しかねないから、なにかがあったときのために貯めておかなければならないというのについつい消費して駄目になる。
「あれ、なんだそれ?」
「あ、稲多君がくれたんだよ」
「ふーん、稲多君さあ」
た、高井に君付けで呼ばれると違和感がすごいというか、背中がぞわぞわとしてくるからなるべくやめてもらいたかった。
「鴻巣、行こうぜ」
「御崎さんと遊べばいいよ」
「いまからは四人で行動するんだろ?」
「楽しそうだったし、御崎さんと遊べばいいんじゃない?」
い、いやでも、やってしまったというわけではない。
高井だって鴻巣だって御崎に従って別れたわけだから俺が悪いわけではない。
それに鴻巣だって高井と楽しそうにやっていたし、それこそこちらも同じようにできる状態なのだが……。
「高井君行こう――うん? 御崎さんどうしたの?」
「ぎ、義一は私のだから」
「じゃあ三人で行こうよ」
「それならいいよ」
それならなるべく距離を作って付いて行くことにしよう。
こういう対応をされることは初めてというわけではないからやりようはあった――というか「どこに行きたい?」などと聞かれるよりもマシな気がした。
最後までいれば約束を守ったことになる、もう頼むとなるべく頼まないようにしようとは決めたがいまを問題なくやり過ごせればそれでいい。
「あれ、なんでいるの?」
「俺も一応メンバーだからな」
「ふーん」
俺が彼女のことを好きでいたらいまので終わっていただろうな。
でも、そんなことはないから静かに付いて行くだけに集中することができた。
「十二月か」
あともう少しでとりあえず今年は終わりということになる。
年だけではなく冬すらも終わってほしいところではあるが、そんなことを願ったところで現実はもっと寒くなるだけだから厳しいところだった。
「十五日が鴻巣の誕生日なんだよな?」
「うん」
「じゃあなにか買わないとな」
あれから一緒にいられていないとかそういうことはなく、意外にもあくまでいつも通りだ。
「ちなみになにか欲しい物とかあるか?」
「うーん、美味しい食べ物かな」
「残る物を贈りたいんだけど」
「残る物残る物……」
あ、駄目そうと言うより、美味しい食べ物をあげた方が確実そうと言うべきか。
相手が求めていない物を渡したところで自己満足にしかならない、それなら消える物でも喜んでもらえた方がいいということで、
「当日は時間をくれないか? それで鴻巣が食べたい物を自由に食べてくれ」
これしかない。
ただ、これの微妙な点は誕生日に時間を貰うことになってしまうことだった。
両親のことも好きな彼女としては仮に美味しい食べ物が食べられるとしてもすぐに「分かった」とはならないだろう。
また、所詮俺が払う人間だから高い物は無理だというのも……。
「うーん、当日はお母さんが作ってくれた美味しいご飯が食べたいかな」
「そうか、ならなにか買ってくるよ」
こういうのも地味にダメージが、でも、当たり前と言えば当たり前なのだ。
特別な関係でもない限りは親と、そうなるのが普通というか大多数だろうからわがままは言えない。
「それよりクリスマスはどうするの?」
「それは鴻巣達次第だな」
俺から集まろうぜなんて言えるわけがない――というわけでもないが、先程のあれで動くべきではないという考えに変わっていた。
それでも、これがデフォルトみたいなものだから情けないとかそういう風に自分を責めるようなことはしない。
所詮自分に甘々だからな。
「みんなで集まるのもいいよね、集まれてちょっとだけでも美味しいご飯があれば楽しそう」
「言ってみたらどうだ? 片方だけなら高井や御崎も受け入れてくれるだろ」
「うん、明日話してみるね」
もしそうするとしても三人で集まってほしかった。
四人でいるときに無理やり合わせようとすると疲れてしまうから休みたい。
二十五日は今年最後の登校日でもあるから敢えて疲れるようなことはしたくないという気持ちが強かった。
まあ、誘われる前提でいるのが間違っていると言えばそうだが。
「稲多君は大丈夫なの?」
「俺の家はクリスマスに盛り上がるとかそういうこともないからな」
「つまり?」
「集まってわいわいやる人間じゃないということだ」
「そっか、じゃあ三人ということになるんだね」
そうだ……って、これも地味にきついぞ……。
とはいえ、もうこうなったら参加することなどできるわけがない。
馬鹿な選択をした馬鹿な人間は一人大人しくしていればいい。
俺らの家は二十四、二十五日だからってなにかをしていたわけではないのだ、だからいまのだって別に嘘ではないということになる。
「でも、よかったかもしれない、御崎さんがいるとすぐに稲多君は仲良くするから」
「それは見間違いというものだ」
「どうだか」
こちらにもあちらにも特別な気持ちなんかは存在していない、で、彼女はやたらと気にしているように見えてそうではないから危険だった。
「あと、そうやって思わせぶりなことを言わない方がいいぞ」
「私はただ、仲間はずれにはされたくないだけだよ」
「仮にそうだとしても言い方というのを考えないと勘違い男子が増えるぞ」
「それは男の子が悪いんじゃない?」
笑みを浮かべてなんてことを言いやがる。
彼女だって気をつけておけば面倒なことに巻き込まれずに済むのにあくまで続けるつもりみたいだ。
この様子なら「私は私らしく相手をしているだけなんだから勘違いしなければいいよね?」なんて言うところも容易に想像することができてしまう。
「あと、稲多君なら大丈夫でしょ?」
「俺だっていつかは影響を受けて変わってしまうかもしれないぞ」
「私が相手なのに本当にそうなる可能性はあるの?」
「なにがあるかなんて誰にも分からないからな、案外小さいことで影響を受けて好きになってしまうかもしれないぞ」
「ならいいや」
え、は、なにがと固まっている間に「今日はもう帰るね」と彼女は出て行ってしまいどうにもならなくなった。
鍵を閉めて戻ってきたが、なにかをやるやる気も出てこなくてソファに寝転んだ。
「鴻巣って難しいわ」
御崎も高井も難しい。
結局クリスマスを無駄なあれで避けてもあまり意味はなさそうだった。
「お前、参加しないのか?」
「ああ」
「そうか、じゃあ三人ということになるな」
「御崎ばかり優先しないでちゃんと鴻巣の相手もしてやってくれ」
「当たり前だ、つか、複数人でいるときにいちゃいちゃとかしたことねえだろ」
嘘つくなよ、すぐにそうできてしまうのが高井及び御崎ペアだろうが。
酷いというわけではないがそれでもゼロではないから間違っている。
「でも、ある程度したら萌音と二人きりになりてえな」
「二十時ぐらいに解散すればいいだろ」
「送ってから萌音と過ごせばいいか」
一人で帰らせるようなことにはしてほしくない、仮に鴻巣が「いいよ」と言っても送ってほしかった。
いつやばい奴に遭遇するのかも分かっていないから常に気をつけておくぐらいで丁度いい。
「キスとかしてしまいそうだな」
「キスか、俺らにできるとは思えないがな」
「いまの二人ができないなら誰ならできるんだろうなって話になるぞ」
「いや、俺ら以外の人間なら余裕でやるだろ」
たまにというか、御崎関連のことになると弱気になってしまうのはやはり好き、だからだよな。
でも、彼がどんなに気にしていようと好きな存在から「義一は私のだから」などと言われている時点で躊躇する必要はないと思うのだ。
寧ろこういうイベントを利用して進めるべきだ、なにもしないと御崎的にもよくはない気がする。
「キスをしたいの?」
「そ、そりゃまあいつかはな」
「そうなんだ」
自然と現れて自然と会話に参加をする、それどころか、答えづらいことだって聞いてしまえるのだから彼女はすごかった。
正直、こういうのこそ御崎の得意なことだと思うのだが、これは自分と彼のことだからそういう機会が訪れないというだけなのだろうか?
それこそ俺らがもっと仲良くできていたらにやにやと笑みを浮かべて色々と聞いてきそうだった
「私もね、興味があってしたくなるときはあるよ」
「相手はいるのか?」
「いないけど、たまにそういう気持ちになるんだよ」
いや嘘だろこれ、彼女の中にあるのは美味しい食べ物を食べたいという気持ちで、たまたまそれで口を意識してしまっているだけだと思う。
「あとはもっとドキドキしたいんだ」
「それなら恋をすれば一発だな」
言い訳みたいに聞こえるかもしれないがなにも恋が全てというわけではない。
趣味でもいいから自分が好きな物に触れれば健全的にドキドキすることができる。
高井は恋愛脳になってしまっているみたいだった。
「恋かぁ、相手がいないとできないよ」
「稲多でいいだろ」
余計なことを言ってくれるな、それで無駄に振られたらどうしてくれる。
「稲多君かぁ、ちょっと話したいことがあるから借りていくね」
「おう」
願望かもしれないが俺的にはそこまで悪いことにはならなさそうだった。
「クリスマス、やっぱり稲多君にも参加してほしい」
「そう言われてもな……」
今回ばかりはなかったことにして分かったとは言えない。
というか、ここで参加するぐらいなら一人で寂しく過ごした方がマシだ。
無駄なプライドだと言われても構わない、俺は自分が決めたことを守れればそれでよかった。
「あ、じゃあ二十時から二人きりならどう?」
「それだったら誕――いや、なんでもない」
クリスマスに過ごすよりかは問題がないということで余計なことを漏らしかけてしまった形になる。
ちなみに彼女は聞き逃したりはせずに「ふふ、そんなに一緒に過ごしたいの?」と今回も意地が悪いところを見せてきていた。
くそ、前回のとは違って影響力が……。
「……世話になっているから礼をしたいだけだ」
相手がいてくれなければ礼をすることもできないからこれは普通の要求だ、一度断られていなければ、の話だが。
あの男子二人よりよっぽど俺の方が――なんてなにかをやらかしたときだけこうして責めたところで意味がないな。
「結構食べられるからお母さんが作ってくれたご飯を食べてからでもいい?」
「でも、それだと遅い時間に外に出てもらうことになるからな……」
「いいよ、稲多君がいてくれるなら大丈夫」
俺ができるのは精々ナンパから助けるとかそれぐらいだ。
実際、そういう男から彼女の腕を掴んで逃げたことがあるから多分この先も似たようなことならできる。
ただ、複数人になるとどうなるのかは分からない。
なにもせずに見なかったふりをして逃げるということはないだろうが、負けてしまう可能性だってありえるわけで。
「だって稲多君がお祝いしてくれるということなら嬉しいもん」
「お、俺は自分に甘いからそういうことを言うとそのつもりで行動してしまうぞ?」
「うん、それでいいと思うよ」
「だ、だからやめろって、なんだよ七月ぐらいからさ」
「ふふ、可愛い反応だねぇ」
いい笑みを浮かべていても色々な意味で怖いって最強すぎだろ。
なんか変なのがきても彼女がにこにことしていた方がなんとかできそうだった。
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