素朴な疑問




「ねぇ、不思木さん」

「うわっ!」


 何気なく不思木さんに声を掛けると、想像以上に驚かれた。

 えっ、そんなに? 仰け反るくらい?


「えっ? あっ、なんかごめん」

「いっ、いやいや。別に謝んないでよー」


 とは言っても、妙に声が上ずってるし、変に驚かせちゃった気がするよ。


「まさか、そんなに驚くとは思わなくてさ」

「だって、よっしーから話しかけるなんて初じゃない? なんかその……うん、ビックリした」


 ……初?

 そう言われ、今までの高校生活をふと思い出してみた。

 確かに、言われてみると全部始まりは不思木さんか。いや、マジで本当に何気なくなんだよねぇ。まっ、結果として初めて先手を取れたって事じゃない? それはそれでやったぞ俺。


「よっしー? アタシ驚かせたからって、なんか喜んでないか?」

「えっ? 別にそんな事は……」


「いやいや、スマホゲーでアタシに勝った時以上に、ニヤニヤ顔全開。してやったり顔してるぞー?」

「まっ、マジか……」

「ふふっ。まぁいいや、驚いたのは事実だし。それで? 何か用事ー?」


 なっ、なんか釈然としないな。まっ、気を取り直して、何気なく気になったことを聞いてみることにしよう。


「えっと、ほんとパッと思ったんだけどさ?」

「うん?」


「そもそも、なんで入学式の時俺なんかに話しかけたの?」

「はいー?」


 それは本当に何気ない疑問だった。

 しかしながら、結構重要な部分でもある。


 こうして見ても分かるように、俺と不思木さんはタイプが明らかに違う。

 見た目も普通。性格も普通。物語の登場人物で言うなら、主人公のクラスのモブ相当なのが俺だ。

 それに対して、見た目派手。性格明るくて可愛い。物語の登場人物で言うなら主人公・ヒロインレベル相当なのが不思木さんだ。


 いくら隣とはいえ、住む世界というかあらゆるベクトルが違う俺に、なぜ話しかけたのか。

 何気なくも重要な疑問。

 そんな疑問が、なぜかふと頭に浮かび……今に至る訳だ。


 まぁ、単純にからかい甲斐がある男だと思われていたとか、そんな気がしなくもないけどさ?


「んーいや、普通話しするでしょ?」

「えっ?」


「だってアタシ窓際最後列だしー、そうなると必然的に、近くってなると前の席か横の席じゃん? そんで教室入って来て席座ろうとしたら……横によっしー座ってた。だから話しかけた……それだけだよ?」

「はぁ……」

「はぁ……って……」


「「…………」」


 ん? 本当にそれだけ?


「……それだけ?」

「それ以外になにがあるのさー」


「いや、俺を奴隷にとか……」

「どっ、奴隷って……大丈夫? よっしー。アニメの見過ぎじゃ……」


「コケにして笑いを自らの糧にしようとか……

「あのね? よっしーから見てアタシなんなのよ? どっかの魔王か?」


 ……あれ? この反応を見る限り、本当に影にやましい理由があって……とかはなさそう? 


「そっ、そんな事は言ってないよ」

「でも、確かによっしーは反応が面白いからなぁ」


 ……えっ?


「えっ?」

「うん? 何かな~?」


 あの、ちょっと? そのにんまり顔止めてくれません? せっかく、気のせいで落ち着かせようと思ったんですけど?


 気のせいですよね? 本音じゃないですよね?


「いやその……」

「なになに~? よっしー?」


 違いますよねっ!?



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