色んな姿
「はぁ、自分が日直の時に手伝い必要とか……ついてないなぁ」
昼休みも終わりに近づいた時間。俺は他愛もない独り言を呟きながら、廊下を歩いていた。
午後イチの理科の授業。その前に準備があるとかないとかで、今日の日直は早めに教室へ来るように。という、先生の命令に従順に従っている。
まぁ、心の声が口から洩れているけど……別に誰も聞いてないだろう。ただでさえ、理科室のあるC棟は授業がない限り滅多に行く機会はない。ましてや、他の生徒は昼休み真っ只中だ。
「はぁ~」
なんて大きな溜め息を吐きながら、C棟への渡り廊下を渡って居た時だった。
「なんですか~先輩?」
不意に聞こえて来た声が耳を通る。
普通なら特に気にも留めなかったと思う。ただ、それが聞き覚えのある声だったら……話は別だ。
……ん? この声、不思木さん?
ここは3階。周りには誰も居ない。とすれば、下か?
俺はゆっくりと、窓から下を見下ろした。
すると……
「よっ、アリスちゃ~ん」
俺の予想は当たった。1階の校舎裏に当たる場所。そこに居たのは、不思木さんだった。
けど、問題はそこじゃない。むしろ一緒に居る奴だろう。
あっ、あれって……
少し茶髪がかった、いかにも今時の髪形。言いも悪いも特徴的なそれらのおかげで、人物の特定は簡単だった。
3年の京月先輩。その顔はイケメンで、女子達の人気も高い。性格は……ちょっと軽い雰囲気もあるけど、話しやすく親しみやすい部分が女子の心を掴んでいるそうだ。
ともあれ、ここの校舎裏となれば、早々に誰も来ないだろう。そんな場所で2人きり……何となく、その目的は想像できた。
「ごめんねぇ、こんなとこ来てもらって」
「全然ですよ~。ちょっと驚きましたけど~」
……もしかして、告白か? けどまぁ不思木さんの容姿と、京月先輩の容姿を考えるとお似合いカップルなのは間違いない。ただ、なんだろう……ちょっと嫌な気持ちもする。
って、それはどうでもいい。見つからない様に……見ていよう。
「ははっ。まっ、じゃあ単刀直入に聞くけど……アリス? 俺君の事好きなんだ。付き合ってくれないか?」
ぐっ! ドストレートッ! 俺の口からは当分出ないだろう言葉を、ここまであっさりと? 恐るべしイケメン。
「もう……先輩? それ何度目ですかー? それに返事ならもうしてるじゃないですかー」
……!? 何度目? 返事はもうしてる? なっ、なぬ? と言う事はだいぶ前から告白されてる? しかも……この状態って事は……断っているのか?
「そりゃそうだけど、やっぱり諦め切れないんだよね? お試しでもいいからさ?」
「それはそれで、先輩に失礼ですしー。先輩の事好きな女の子達にも失礼ですってー」
「いやいやそんな事無いって。いいだろ?」
「先輩? 前から言ってるじゃないですかー。私好きな人居るんです。だから無理ですって―」
なっ!? いやいや、そりゃ不思木さんだぞ? 好きな人の1人は居るだろうよ。けど、このイケメンを前にしても、好きだと言える……どんな超絶イケメンなんだ? その相手は……逆に気になるな。
「うーん。じゃあさ? とりあえず、1回ヤッてみない?」
ん? んん? あれ? 耳おかしかった? 凄い事言ってたような……
「体の相性から始まる恋ってのもあるじゃん? とりあえず試しに……さ?」
相性? まてまて、なにさらっとドクズ発言してんすか! ……いや? これはあれか? イケメン美人、チャラ男ギャルの間ではごく当たり前の認識とかなのかも?
……ってんな訳あるかっ!!
「先輩、それは流石に……冗談ですよね?」
その瞬間、少しだけ不思木さんの雰囲気が変わったような気がした。それこそ、今までに感じた事のない雰囲気。体がゾワっとする様な……
不思木……さん?
「いやいや、まじまじ。別に減るもんじゃないしさ? 良いじゃない?」
「……ふぅ。先輩? 改めて、ごめんなさい? アタシ、そういうのは好きな人とって決めてるので」
「うーん。じゃあ仕方ないか。じゃあ、気が変わったら教えてよ。当分俺は……諦めないからさ?」
「はーい。それじゃあ失礼します」
……行ってしまった。
けど、なんか不思木さんの色んな姿を見てしまった気がする。
それに……好きな人とか……意外と乙女なのか? あの見た目で……
「っち! くそ」
うおっ、今度はなんだよ。
「まぁいい。その内堕ちるだろうよ。待ってろ? 不思木アリス」
……おいおい、京月先輩よぉ。
見た目のまんまの最低キャラじゃねぇか!
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