ぶっ、部活ですか?
いつものように澄み渡る青い空。
窓から注ぐ、心地よい太陽の光。
それらを体に感じながら、俺は次の授業の準備をしていた。
そう、何気ない高校生活の1コマ。何気ない日常の風景。だと思っていたけど、そうは問屋が卸さない。
えっと、次の授業は……
「ねぇねぇ、よっしー」
その時だった。耳に入る聞き覚えのある声。
もはや見る間もなく、その主はハッキリとしている。
……来たぞ。今日は俺をどうしようってんだ?
「なんでしょう? 不思木さん」
視線を向けると、そこにはやはり不思木さん。窓際という場所も相俟って、その金髪褐色肌が空の青色に抜群に映えている。悔しいが。
「よっしーってさ、部活入らないの?」
「部活?」
部活だと? ちょっと予想外の話題だな。
小、中では陸上をやっていたけど、正直高校では続けるつもりはない。大体、部活と言っても選択肢は野球部か陸上部の2択だったし。女子はソフト部か陸上部。
それに、色々大会に出たけど……上には上がいると思い知らされたもんだ。だから、無理に部活やるよりは、学力と高校生活を謳歌しようと決めている。
……待てよ? にしても、このままバカ正直に答えてもあれだよな? どうせなら、今日は俺が不思木さんをおちょくってやろう。
「うんうん。ちなみに中学校では部活やってたのぉ?」
「どっちだと思う?」
「どっち……ははぁん。まさかよっしーから質問されるとはなぁ。ふっふっふ……受けて立ってやろう」
よっし! 上手く引き込んだぞ?
「ではどうぞ?」
「おっけぇ。じゃあ、まず部活はやってた」
これは2択だし……当てられても仕方ない。
「正解」
「ふふっ。1問目正解ぃ」
「そうだね。じゃあ次は……」
「何部だった? でしょ?」
……流石に話の展開的に分かりやすかったか? って! 出たぞ? あのにんまり笑顔! くっ……今に見てろよ?
「正解」
「やったねぇ。2問目正解ぃー」
「はっ、はぁ? 今のは問題じゃないでしょ?」
「えぇ? そんな事無いでしょ? 問題は問題。ささっ、次は3問目ね?」
なっ……くそ。なんか腑に落ちないんですけど? まぁいい。次だ次。
「まっ、まぁ別に良いけど。じゃあ何部だったと思う?」
「何部か……これは結構難しいかも」
そりゃそうだ。そもそも俺の居た田舎中学の部活事情なんて、不思木さんが知る訳ないだろ?
「どう? 多分当たらないと思うよ?」
「うーん」
いやいや、俺の体見て判断しようとしても無駄だって。制服の上からじゃ体の特徴なんて……
「おっけぇ。じゃあ……陸上部だ」
「はっ?」
嘘だろ? 当てた?
「だーかーらー、陸上部ッ!」
「なっ……」
待て待て。なんぜ当てられた? 田舎の部活事情なんて知る訳はないし、俺は陸上でそんなに有名でもない。なのに……
「その反応、正解みたいだねぇ? ふふっ」
勘か? ただの勘か? ……くっ、それにしたって……これじゃ不思木さんをおちょくるどころか、いつも通りじゃないかっ!
「せっ、正解」
なっ、何かないのか?
「やりぃ~。これで3問、全問正解。パーフェクトだねぇ」
「そっ、そうだね」
何か……最後の足掻きが出来るモノ!
「とっ、ところでなんで陸上部だったって分かったの?」
「うん? 勘っ! ただの勘だよぉ」
「まっ、マジか。ちなみになんでいきなり部活の話?」
「ふふっ。何でだと思う~?」
って! 最後の足掻きどころか、いつも通り追い込まれて致命傷でも与えられそうな雰囲気なんですけどっ!?
変に答えたら笑われる。
不正解でも笑われる。
……となれば、最善の回答は……これだっ!
「いや……分からないよ」
「分からない? まぁそれもそうだろうねぇ?」
おっ? この反応……最高の回答だったか!? いやはや、もう1カ月以上隣に居るんだ。大体のパターンは読めてるつもりだぜ。
「ははっ。そうなんだよ。だから教えてよ」
「別に簡単な事だよ?」
「簡単?」
「うん! よっしー部活に入るなら……」
「その部活のマネージャーになろうかなぁ? って思って」
……は?
そんな思わぬ発言に、思わず俺は不思木さんの顔をまじまじと見てしまった。そしてその先には、例の如くにんまりとした笑顔があった。
そして、声を出す間もなく、
「なぁんてね? にっしっしぃ」
またしても聞き慣れた、いつもの声。
それが耳に入った瞬間、俺は途方もない敗北感に襲われる。
……やられた。見事にやられた。
結局……今日も掌の上で弄ばれたぁぁぁ!
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