好きな食べ物って……
いつものように澄み渡る青い空。
窓から注ぐ、心地よい太陽の光。
それらを体に感じながら、俺は……
「ねぇねぇ、よっしー」
……はいはい。今度は何でしょうか? いつぞやみたいに、顔が真っ赤だったとかくれぐれもギャル仲間に言わないでもらえます?
『たこさんウインナーじゃぁん』
『マジウケるー』
ただでさえ声がデカい奴らなんだぞ? まぁ個人名を言ってないだけマシか。いや? にしてもこっちを見るあの顔は……不思木さんのそれとは違って、なんかイラっとしたけどな。
「なんでしょう? 不思木さん」
「よっしーって、好きな食べ物とかある感じ?」
好きな食べ物?
…………基本的に好き嫌いはないな。その中でも好きなものと言えば、甘い物とか結構好きだな。あと果物……って、ヤバいヤバい。一瞬嫌な予感が頭を過ったわ。
―――甘い物ー? 意外と乙女チックなんだねぇ。ニヤニヤ―――
もしくは、
―――あっ、甘い物? へっ、へぇ…………みんなぁ、よっしーってさぁ……―――
―――えっ? 甘い物? 男なのに?―――
―――マジ? チョーウケるんですけどぉ―――
くっ! あくまで予感だが、念には念を入れなければ。となれば……
「まぁ、人並みには」
「へぇー、なになにぃ?」
適度に男らしく行けばOK。
「辛い物とかな?」
「へぇー辛い物? なんか意外ー」
ふっふっふ。人並みだがな。けど、男としてはおかしくはないだろう。
「そうかな? 担々麺とか好きだけど」
「ほほー。結構イケる口なんだねぇ」
「まぁね?」
おぉ、見てくれ! この不思木さんの反応。ちゃちゃを入れる隙間のない、文句の付け所のない回答だ。
「辛い物には自信ありってかぁ? 実はさ、アタシも辛いもの好きなんだよね?」
……は?
「えっ? そっ、そうなの?」
「そうそう。
…………ヤバいっ!
その瞬間、大して暑くないにも関わらず、額を滴る冷や汗。もはや今の不思木さんの一言で、俺は自分の犯した過ちを悔いる事しか出来なかった。
信楽ラーメンって、ここら辺の人じゃ知らない人は居ない有名店で名物が信楽ラーメン。それも10辛だと? 一般人は1辛で汗をかき、2辛でヒーヒー。3辛で悶絶レベルだぞ? それを10辛? 大好き?
それに、じゃわめきハウスの唐辛カレー? カレー専門店だけど、そんなメニュー聞いた事が無いんですけど!?
こっ、これはマジでヤバイ。まさか対不思木さん用に口にした嘘の好物と、不思木さんの好物が一致するとは。しかも、聞く限り相当な辛党じゃねぇかっ! どどっ、どうする? ひっ、必死に話を合わせるしかない。
「へっ、へぇ。なかなか凄い……ね」
「あの一口食べた後に、じんわり汗が出てくる感覚がいんだよねぇー」
「あぁ……分かるかも」
「でしょでしょ? いやぁー、にしてもよっしーが激辛好きとはねぇ。思わぬ発見だよぉ」
あれ? 激辛? 待て待て、辛い物好きから激辛好きになってんですけど? けど、ここまで来たら合わせるだけ合わせて……
「ははっ。おっ、俺もまさか不思木さんが激辛好きとは……」
「だよねー。マジ驚きっ」
静かにフェードアウトするしかないっ!
「はははっ……」
「じゃあさ? 今度行こうよー信楽ラーメンっ!」
……ん!? なんだって?
「うん?」
「やったねぇー! 良かったぁ、なかなか激辛好きな子いなくてさ? いやぁよっしーが激辛好きで良かったよー」
「えっ、いやちょ……」
まてまて! 今のうん? は疑問形であって、決して返事のうんじゃ……
「よしよし、楽しみ増えたぁ―。早速……って、なんか言った? よっしー」
「えっと……」
いっ、いや。そもそも嘘言った俺が悪いよ。けどさ? その後の展開は正直、言葉の綾というか、色々とおかしいんですよね?
とっ、とりあえずちゃんと言わないと! そこまで激辛好きじゃ……
「とりま聞いてみるもんだわぁ。激辛巡り楽しみ過ぎっ! テンション上がるぅ」
…………言えるかっ!
いつものにんまり笑顔とは違う、ガチの笑顔じゃないかっ!
ちくしょう! 元々の素材が良いだけあって……
「スケジュール確認してっと……ふーん♪ふーん♪ふーん♪」
嬉しそうな雰囲気がめちゃくちゃ可愛いんですけどっ!?
あぁ、ここから実は嘘でしたなんて言おうものなら、なんて言われるか何をされるか想像もしたくない。
けど……
「げっきから♪信楽♪10辛ぁぁ♪」
いろんな意味で俺……大丈夫か?
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