第8話・近づく終焉

「失礼します」


「来たか、グランくん」


「国王陛下、二人ともっ」


今まさに自分達の目の前に居るのはこの国の王だ。そんな存在と護衛なしでの会話をすること自体、有り得ない話だ。


三人同時に地面へとしゃがみこみ、


拳を着ける。


「立ちなさい、三人共、わたしの前では普段通りでいいのだよ」


「いえ、国王陛下にそんな軽率な事はできません」


「陛下が仰ってるんだ。早く立てお前達」


壁にもたれ掛かるエルゼ、彼女もまた陛下とは親しいと聞く、深い理由は知らないが、



「分かりました。では本日は何か緊急での事態でしょうか? 陛下」



「私が説明してやる、アルデラ」



エルゼは陛下の前などお構い無しに、いつも通りの態度を見せつけ、本題へと入る。



「今朝、四カ国連合からの情報が届いてな」



「なんだと、俺たち三人に救援要請か?」



「そう焦るなダン、お前も私に似て態度がでかいのはいいが今の立場を忘れるなよ?」


そう、彼女と僕達との関係は生徒と教官、それ以上でもそれ以下でもない。

焦るなと、エルゼは釘を指した。




「手短に言えば、連合から犠牲者が出たとの報告だ」


グランは直ぐに感じ取る、嫌な予感を。


「……詳しくお願いします」



「マーキュリー、ビィーナス、マーズ、各国のパラディンが数人ずつやられた、それも無惨にな……」



「……正確な人数は分かっていますか先生?」



「現状判明しているのは九名だ」


ダンもイラつきを隠せないように、エルゼへと突っかかる。


「その九名は同じ奴に殺られたのか?」



「あぁ、連合に見せつける為だろうな、九名共に同じ武器、同じ殺され方で見つかっている。」



「チッ、相当な手練なのは間違いないとして、もっと情報が欲しいに越したことはないが」


「私が思うにだけど! この殺され方だと、

敵は複数居る可能性があるよ!」



「サテラ、詳しく頼むよ」


「うんグラン」


「まず胸の切り裂かれた跡、同じ場所に複数の傷はないのにここまでの深さがあるし、剣じゃないと思う。これは…鎌、今じゃあんま聞かないね。そして見えにくいけど、弓で狙撃されたような傷、少し魔法の跡もある。後方支援に弓の使いと魔道士も居たに違いないよ」


「なるほどな、この写真だけでそこまで見抜くとは、観察が優れているようだな? アルマテラ」



「いえいえそんなことないですよ、へへっ」


少し照れているのか、前髪に触れるサテラ、



「ありがとサテラ、じゃあ敵は複数で基本単独行動のパラディンを狙ったと」


「とはいえグラン、パラディンを簡単に倒せる賊だ」


「あぁ、そうだねダン、この写真を見るだけで嫌でも思い出してくるよ……」


「おいグラン、お前は面識があるのか?私と陛下に知っている事を話せ」


「はい、陛下とエルゼ先生も知ってる通り、敵は間違いないなく彼らだと思います」



空気が変わる、信じたくない現実が迫っていると、本能で感じているからだ。


「……終焉、なのかい……? グランくん」


「その通りです陛下、元々【終焉】という部隊は、連合国が結束した際、パラディンの存在を末梢する為だけに結成された帝国最上位の騎士達です。僕が知ってる限りでは、帝国にパラディンを倒せる存在は彼らを除いて居ません」


「君達でも敵わない相手なのかい……?」


国王は手に汗握る表情で口にする。

無理もない。パラディンは四つの同盟国の希望とも言える騎士達であり、最高戦力だ。そんな称号を持つ騎士が複数人も殺られたとなれば、

国家を揺るがす自体だからだ。


「正直言うが国王、そもそもグランは別として俺とサテラじゃまず無理だ。まぁ二人でなら一人を倒せるかどうか、って感じだろうな」



ダンの言葉は正論だ。

三人とも帝国に属していたが、

グランを除く二人には「終焉」には配属されなかった明確な理由がある。その理由は単純に力で劣っているからだ。


「だが、言った通りグランだけは別だ、

帝国時のこいつはその部隊の一人だったからな」


「ほぉう、で? 肝心のグラン、お前はそいつらを束ねていた最強の剣士、という訳でも無いのだろう?」


「先生のおっしゃる通りです。終焉の十人の内、僕が持つ称号は第七位でした。到底上の順位に君臨する連中には敵いません」


「そもそも存在自体がやばい部隊だぞグラン、謙遜するとじゃねぇぞ」



「そうだよグラン! 当時のグランのは十五歳だよ?! そんな少年があの部隊に所属してる事自体がやばいんだよ!」


「ほう……? 七番目、それが実際どれくらいのレベルなのかも私には想像つかんが、実際貴様らの証言にも不明点画多すぎる」


「何言ってんだおま、いや、先生、さっきの写真の通りだろ。連合の最終兵器、パラディンを

こんな感じに屠っていやがる連中だ。レベルなら十分感じたはずだ」


「ならばこの国は壊滅する。そう言いたいのか?」


「先生、陛下の前ですよ。僕はそんな事は一言も、ですが手を打たないとこの先、次々とパラディン、一般市民にまで危害が及びます」



「だが肝心の貴様ら三人は今は所詮、学園生活に浸っているガキ同然だ」



「何が言いてぇんだアンタ?」


「落ち着いてダン、エルゼ先生の言っている事は間違ってはいない。それに今の僕達は国家機密とはいえパラディンなんだ」



「そもそもアンタ何様なんだ?教官?偉そうな事いいやがって、元軍人だかしらねぇが間違いなくアンタよりは険しい経験してきてんだよこっちは」



「よせダンッ!陛下の前だぞ」




「フッ、貴様らガキの経歴は知ってるが、実際の戦闘は見ていない。余り奢らない事だ」



「……チッ……」


刹那、エルゼは椅子に腰掛けるダン目掛け不意の回し蹴りを繰り出す。


椅子ごと破壊された威力に廊下に吹っ飛ぶダン。


「ここは校長室ですぞエルゼ先生!わたしはこんな事求めていない!」


国王陛下の目の前でありながらそれを無視に暴れだす。


ボロボロになりながら壁にもたれ掛かるダン


「ってめぇ」


「この程度にも反応出来ないとは、所詮はまだ若僧だな。ほら、その怒りをぶつけてみろ」



瞬間、ダンは一瞬でエルゼの背後に周り拳をぶつける。


人も殺す威力


「ダン駄目だ! 先生をがもし!」


言い終わることなく、目の前を速すぎる何かが通過する



ダンがの腹にはエルゼの拳が深く入っている



「グフォッ、ゴホッゴホッ」


ダンは両膝から崩れ落ちる



「何か言ったか?グラン、安心しろ。ちゃんと殺さないくらいにはしてやったからな。コイツは私に手加減を選択させるレベルだと言うことだ」




ダンは頭を踏みつけられ口から出血している。


「次はお前かサテラが相手してくれるのか?

あぁ、やはり得意としてる武器を持って再戦がいいのか?」



先程の彼女の速さ、ダンを一撃で沈める拳



絶対に元軍人で説明がつくレベルじゃなかった。


そうなると答えは少し浮かび上がる。



「パラディン……」



「そんなっ!それほんとに言ってるのグラン?!」



「なんで自分から明かさなかったんですか、先生」



「明かす必要が無いからだ。他の生徒にはもちろん他言無用だ」




エルゼは瞬時に国王陛下へと視線を送る。


陛下はため息を吐き、口を開く



「彼女は元パラディン。エルゼ・ロードケイン、

一年前までは現役のパラディンとして功績を上げていた格闘術のマスターだ」


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