その影を踏ませるな!!―化け物に自分の影を踏まれたら一発アウト―
狐狸 猫犬
その影を踏ませるな
「はぁはぁ……やばい、逃げなくちゃっ!」
逃げるって何から?
そんなの決まってる、化け物からだ。
奴らは色んな種類がいてみんな手にランタンや蝋燭、ライトなんかの『光源』を持って追ってきてるんだ。
「暗いところは……くそ! ない!」
今逃げているところは広い敷地で色んなものが落ちてたり、朽ちてそのままになっている。だけどどこもかしこも強力なライトが上から照らされていて暗いところがあまりない。
「明かりを消さなきゃ!!」
何でってこのままじゃ、自分の足元に影が出てるままだ。化け物たちは影を見境なく踏もうとしてくるんだ。踏まれたら身動きができなくなって持っている大袋に入れられてしまう。
そうなったら二度と逃げられない。現に影を踏まれた奴を見たけど、帰ってはこなかった。
数本ある大きなライトの下にきた。
ここの配線を切り替えればライトが消えて一定のエリアが暗くなる。逃げるのに有利になるんだ。
「配線はどうなってる? くそ、やるしかないんだっ」
「ギィィィィ……!」
「近くまで来てるっ?! は、早く……早くしなきゃっ!」
その時配線が上手く切り替わってライトが消える。周りのいくらかの場所がやっと暗くなる。
化け物たちの光源は基本そんなに明るくないから暗いところさえ出来れば隠れたり、やり過ごしたり出来る。
「か……隠れないとっ!」
暗くなった茂みに身体を隠す。
化け物の足音が近くなり、辺りの空気がぐんと下がっていく。
吐く息が白くなっている。
「ギィィィィ……」
息を目一杯殺す。
化け物が手に持った光源を暗闇の中でゆっくり揺らしながら獲物を探している
見つかるな。
見つかるな。
見つかるな。
見つかるな。
見つかるな。
そのまま通り過ぎてくれっ。
「キシャァァァ!!」
見つかった!? 終わりだ……もう何もかも。
「た、たすけて!!」
「!」
その時近くの瓦礫の山から別の奴が明るい方に向かって逃げていくのが見えた。化け物はそいつを追っていったのだ。
「自分じゃなかったのか……助かった。今のうちにっ!」
別の奴が追われてる隙に残りのライトを消さないといけない。そうすれば『出口』が見つかるんだ。その出口の先は真っ暗な通路になってるのを覚えている。きっと逃げられる。
他の奴らがライトをまた一つ消した。協力して全てのライトを消さなければ。
「あああああっっっ!!!」
遠くで断末魔が聞こえてきた。
化け物に影を踏まれたんだ。恐ろしい。
同じようになりたくない。
生きてここから出なくては。
「そういえば、自分は『誰』だっけ……?」
逃げながらふとそんなことが頭に浮かんできた。恐怖で頭がおかしくなってるんだきっと。そんなことより明かりを消さなくてはっ。
化け物と生死を賭けた追いかけっこをしている中、やっと最後のライトが消えた。 どこからか大きな音がした。
「やった、出口だ!」
大きな音が聞こえた方に走っていく。辺りは真っ暗だ。もう少し、もう少しで出口なんだ!
「ギィィィィ!!!」
「ま、まずい! 気づかれた?!」
振り返ると背後の暗闇に小さく化け物の光源が揺れている。すごい速さで真っ直ぐこっちへ向かってきている。
「早く出口にっ!!」
茂みを抜けると正面に出口が見えた。他の皆が手を振っている。もう少しだ! 走れ! 絶対に追いつかれるな! 影を踏まれるな!
真っ暗な出口をくぐる。
化け物の影がうっすら見えたが、この暗さだ。
もう追っては来ないだろう。
「た、助かった。ありがとう、みんな! あれ? みんな……何処に行ったんだよ?!」
真っすぐな道を歩いていたはずなのに、気が付くと他のみんなの姿がない。
何だが意識が遠のいてくる。
身体の感覚がなくなってくるようだ。
気づくとライトで照らされた敷地の中に立っていた。
「はぁはぁ……やばい、逃げなくちゃっ!」
逃げるって何から?
そんなの決まってる、化け物からだ。
その影を踏ませるな!!―化け物に自分の影を踏まれたら一発アウト― 狐狸 猫犬 @kori-nek0inu
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