第10話
五時間目の授業が終わったあとの休み時間。白兎さんに目で合図をされて俺は廊下に出た。状況が状況だけに呼び出しをくらのはわかっていたし、俺も少し話をしておきたいと考えていたのでちょうどいい。
「放課後に二人きりで。そういうシチュエーションを狙っているんだよな? わたしは信じているぞ」
白兎さんに詰め寄られて、俺は首を縦にも横にも振ることができなかった。。小柄なくせに妙な迫力があり目を合わせるのも恐いくらいだ。
「授業が終わるとすぐに立って女子のグループに入っちゃうし、そもそも教室で話し掛ける勇気はないしデラレンの話題なんて出したらキレられそうだし無理無理無理!」
「そこを乗り越えてこその恋愛実況だぞ。さあ、わたしの生活費のために当たって砕けるんだぞ」
「生活費のためって言っちゃったね⁉」
「わたしにはツッコミを入れられるんだから、この調子で黒星にツッコめばいいんだぞ」
「それができれば苦労しないって」
だいたい三学期なんてクラス内でのポジションが確定していてそれはクラス替えをしても変わらないことを突き付けられる時期だ。ただでさえ運が良いのか悪いのか黒星さんの隣の席になって肩身が狭い思いをしてるのに話し掛けたら陽キャ男子に目を付けられかねない。俺は平穏な学校生活を送っていきたいんだ。
「黒星はバドミントン部だったな。よし。体育館に入る前にちょっと時間をもらうぞ」
「なんで早くも黒星さんの部活を把握してるんだよ。ストーカーかよ」
「失敬な。良平のために黒星の情報を集めってやったんだぞ」
「転入して二日目でやることじゃないだろそれ。いきなり俺を呼び捨てにするし、白兎さんってクラスでどんなポジションになってるの?」
休み時間の度に男女問わず人が集まっている光景は目撃している。それもクラスの中心人物が多い。転入したばかりの物珍しさからか、白兎さんも陽キャ側の人間……いや、神だからなのかはわからないけども。
「黒星はなぜかわたしを避けているみたいだが、他のやつらがいろいろ教えてくれたぞ」
「そりゃあいきなり呼び捨てにするやつとは距離を置くだろ」
むしろ他のやつが気を悪くしてないのが不思議なくらいだ。
「ほっほっほ。女子は苗字を呼び捨て、男子は下の名前を呼び捨てにすると距離感が縮まったように感じるらしいぞ」
「まさか白兎さん、他の男子も名前で呼んでるの?」
「ん? 良平だけが特別じゃなくて残念か?」
「いや、それこそ実況向けの恋愛模様になるんじゃないかと思ってさ」
白兎さんの子供っぽさは親しみやすいし、ちょっと上から目線のキャラもツッコミを入れるのに適している。俺みたいな女子慣れしていない男子は確実に勘違いしてしまう。
ちなみに俺は大丈夫だ。出会い方が特殊だった上にロリコンじゃないからな。
「可愛いわたしに恋をする気持ちもわかるぞ。ただ、昨日も言ったように人間と神の間に恋愛関係は成立しない。まあ、引っ掻き回すだけ引っ掻き回すのもバズりそうだからアリだな」
金に目がくらんだ小悪党のような笑みを浮かべると白兎さんはスマホを取り出した。
「まさか本当にそんな配信をする気じゃ」
「失敬な! わたしは恋愛の神。叶わぬ恋を意図的に作り上げることはしないぞ」
「もし生活費に困ったら」
「…………背に腹は代えられん」
「そこは神様らしく信念を貫いてほしかったよ」
神様のくせに妙に人間臭いんだよな。生活費とか言ってるし。
「わたしのことはどうでもいいんだぞ。よし。とりあえずお膳立てはしてやったぞ」
「ん?」
「黒星を体育館裏に呼び出しておいたぞ。わたしを避けてるわりにはちゃんと連絡には応えてくれる。良平と同じで素直じゃないなあ」
「まさかとは思うけど、白兎さんが黒星さんを呼びだしたのに、なぜかそこには俺がいるってことかな?」
「そのまさかだぞ。わたしがしっかり実況で二人を盛り上げるから安心するんだぞ」
「ばかやろー! 体育館裏ってまるで告白じゃないか」
「おお! 良平にしては大胆だぞ。デラレンファンの友達を飛び越えていきなり告白はバズる」
「絶対にフラれる告白なんてしないわ!」
デラレンを遊んでいる時は絶対に無理とわかっていても低確率に挑む時がある。だけどそんな低確率を引き当てられるのはおこう先生みたいな神に選ばれた強運の持ち主だけだ。
俺はそちら側の人間ではない。デラレンで何度もそんな場面に遭遇して一度も強運を発揮した経験がないからこそきちんと自覚している。
「さあみなさん。果たしてこの男は告白するのでしょうか。本人は否定していますが前振りかもしれません。しないしないと言っておいて告白をする。そんなエンターテイナーな一面に期待せざるを得ません」
「実況で煽っても俺は絶対に告白なんてしないからな」
「ほっほっほ。良平は素直じゃないなあ」
白兎さんはニヤニヤしながら俺を見る。追い込まれれば絶対に告白すると思い込んでいそうな目だ。俺を見くびるなよ。ちょっとでも告白する勇気があるやつは神社でモテたいなんてお願いはしない。
「おっと。そろそろチャイムが鳴るな。良平、頼んだぞ」
「自分で歩け……って言っても俺だって教室に戻らないといけないから対策しようがないな」
「ほっほっほ。理解が早くて助かるぞ」
俺は駆け足で教室に戻るとほぼ同時に涼しい顔で白兎さんも教室の前に戻っていた。たまたま人がいないから良かったものの、誰かに見られたらどう説明するつもりなんだ。
地味で冴えない陰キャが神様を心配するという特殊な経験をしながら俺は自分の席へと戻った。左を見れば俺のことなど眼中にないといった様子で黒星さんが鎮座している。
俺、本当にこの人と友達になれるのかな。
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