第8話

 俺の高校生活がつまらないと理解できればすぐにターゲットを移すはずだ。それまでの辛抱と考えればちょっとした人生の思い出くらいにはなる。


「と、言う訳でさっそく明日、黒星デラレンファン友達になるんだぞ。まずはお友達からというやつだな」


「あ……明日?」


「善は急げというやつだぞ。三学期も残り少ないしな。席替えはもうないにしてもクラス替えをしたら良平にチャンスは皆無だぞ」


「もしも。あくまで仮定の話だけどさ、俺がいつまでも黒星さんに声を掛けずにクラスが別々になったらどうなる?」


「視聴者はゼロになりわたしの収入はなくなる。良平がわたしを殺したも同然だぞ」


「え? ターゲットを他に変えたりしないの?」


「わたしは恋愛の神様だぞ? 神社でお願いした人間しか実況できない」


「マジ? あのさびれた神社で?」


「ぐぬぬ……気にしていることを」


 神様としては神社がさびれているのは気になるポイントらしい。だけどそれは俺にはではなく神主さんにでも訴えてほしい。白兎さんは概念的な存在の神様でななくこうして実体を持って誰とでも話せるんだから。


「とにかくわたしには時間がない。進級する前に告白するのが目標だぞ」


「いやいやいや! さすがにそれはハードル高いって。好感度マイナスで告白してもフラれるコースで恋愛の神様としては不本意なんじゃないか?」


「告白を一度きりと決めているのが恋愛経験ゼロって感じだぞ。一度でダメなら二度、二度でダメなら三度。こうして何度も告白しているうちに呆れて付き合ってくれるかもしれない」


「それって俺を好きなんじゃなくて自己防衛の手段として告白を受け入れてない?」


「どんな形であれ恋愛成就であることに変わりはないんだぞ」


 黒星さんと白兎さんの実況から逃げ続ければ自然消滅してくれるという考えも通用せず、それどこか何度でも告白することを強要されそうな状況にめまいがしてきた。


「とにかく明日は黒星に声を掛けられるようにわたしもアシストするから大船に乗ったつもりでいるんだぞ」


「めちゃくちゃ不安なんですけど!」


「ほっほっほ。なら一人で声を掛けるか? ん? それはそれで勇気を出した男として盛り上がるからわたしとしてはありがたいぞ」


 隣の席に座る黒星さんに声を掛ける自分を想像したみた。ただ名前を呼んだだけで『興味ないわ』と一蹴される姿が容易に思い浮かぶ。


「白兎さんお願いします。手伝ってください」


「うむうむ。良い心掛けだぞ」


 白兎さんは両手を腰に当ててドヤ顔でうんうんと頷いた。


「ところで白兎さん」


「ん?」


「俺のところにワープできるのはわかったんだけど、ここから出るのはどうするの?」


「どうって。それは玄関から出るに決まってるぞ」


「待て待て。母さんに見つかったらどうするつもりだ」


「ご挨拶するに決まっているぞ。これから息子さんの恋愛模様を実況させていただきますとな」


「礼儀正しいけどそうじゃない!」


 巫女服を着た同級生(見た目だけなら小学生)を俺が連れ込んだみたいなシチュエーションなのが問題なのだ。見つからずに俺の部屋に来るのは百歩譲って許すとしても、帰り道で見つかってしまうのでは意味がない。


「あっ! 俺が先に外に出て白兎さんがワープすればいいのか。そこの窓から俺の姿が見えたらワープしてくれ」


「えー? 神社まで行ってくれないのー?」


「行くか! 帰り道くらい自分で歩け……と言いたいところだけど」


 ハアッとわざとらしく大きなため息をついた。


「さすがにもう暗い。でも俺が神社まで行ってワープされるのは釈然としない。だから白兎さんを神社まで送っていく」


「歩くのは面倒臭いが……れ、恋愛経験ゼロにしてはなかなかいい心掛けだぞ」


 ちょっとだけ顔を赤くしながら白兎さんはごにょごにょと俺を褒めた。さすがに巫女服の見た目幼女が夜道を歩いてたら通報されかねないし。そのリスクを俺と半々にしてあげようという何となく芽生えた優しさだ。


「じゃあ母さんに出掛けてくるって言ってくるから大人しく待ってろよ。ちゃんと俺の姿を確認したらワープして外に出てくるように。絶対に一人では神社まで行かないからな」


 しっかりと念を押して俺は部屋を出た。だけどなんだろうこのモヤモヤは。

 ほんの少し違和感というか不安感が残っている。

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