第4話

「ねえねえ白兎さんって前はどこの高校だったの?」


「っていうか地頭くんとはどういう関係? 幼馴染とか?」


「それ地毛? マジ綺麗」


 心の準備はできていなかったので質問攻めの対象が白兎さんになったのはとても助かった。

 原告の前に話し掛けてきた西山くんすらも白兎さんゾーンに入っていた。そりゃそうだ。反応が薄い陰キャと新しく加わった転入生。どちらに質問攻めをしたら楽しいかなんて誰でもわかる。

 一時はクラスの晒し者になることを覚悟しただけに気が抜けてどっと疲れた。


「まさか地頭にあんな可愛い知り合いがいたなんてねえ」


「知り合いってほどじゃないんだ」


「でも名前で呼ばれてたよね? いやはや、まさかここにきて地頭に逆転されるとは」


「逆転?」


「突如やってきた転入生と恋人になるなんて青春の勝者だと思わない? 普通に恋愛するよりも運命的で情熱的だよ」


「なんて俺が白兎さんと付き合うことになってるんだ?」


「だって恋愛を成就させるって言ってたじゃない。白兎さんが地頭と付き合うって意味じゃないの?」


「たぶん違うぞ」


 本人曰く白兎さんは恋愛の神様だ。自らの身を犠牲にするのではなく、俺と誰かをくっ付けるのが目的だ。だけど残念なことに俺には恋人と候補となる幼馴染や女友達、先輩はいない。


 一切のフラグが立っていない俺の恋愛を成就させるなんて神様でも難しいと思う。

 もし白兎さんが本当に神様なら隣の席になった黒星さんとのフラグを立ててみてほしい。


「あれ? 白兎さんがこっちに来るよ。良かったな地頭。チャンスだぞ」


「チャンスって……俺は白兎さんと何も」


 言いかけたところで白兎さんは俺の前に仁王立ちした。

 小柄なので腕を腰に当ててもあまり迫力はない。はずなのにその表情は自信に満ち溢れていて俺みたいな陰キャはビビッてしまう。


「良平。このクラスに好きなやつはいないのか?」


「ふえっ⁉ い、いないけど」


「むむう。照れ隠しではなく本当にいないのか。だからモテたいなんて抽象的な願いを」


「わー! わー! 白兎さんあっちにたくさん友達がいるんだから俺にお構いなく」


 白兎さんが神様かどうかはともかく、あの日俺の切実な神頼みを聞かれたのは事実だ。

 この事実を握られているで俺の立場は弱い。そして弁明をしたところで俺の話をちゃんと聞いてくれるのは鈴原くらいなわけで。

 つまり俺が今できる最善手は……。


「ごめん。ちょっとトイレ」


 勢いよく立ち上がり教室から逃げ出した。

 ほとんどのクラスメイトが白兎さんの座席近くに集まっていたので俺の邪魔をするやつは誰もいない。鈴原くらいしか友達がいないのが功を奏した。やっぱり友人は数より質なのだ。

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