第53話 真・ヴリトラと真・ルイーゼ

 ドクドクと、ヴリトラの腹から血液が流れ出す。その血は真っ黒で、人間のものとは違う。


「クニミツ、嫌な予感がする」

「オレもだよモモコ」


 やはり、予想は的中した。漆黒の血液が、三つ首の竜へと変貌を遂げたのだ。


「わが血を触媒とし、ヴリトラの真の姿を解放するのだ!」


 竜がさらに質量を増し、街を押し潰すほどの大きさとなった。


 三つ首の竜が、街を破壊する。


 人々がなすすべなく、ガレキの下敷きに。


 スケルトンたちが救助しなければ、多くの犠牲者が出ていただろう。


「ヤロウ!」


 オレはキャノン砲を敵の首部分へ放つ。


 相手の首を折るほどの衝撃があったはずだ。


「ムダだ。この状態になった我は、もはや誰にも止められぬ!」


 しかし、ヤツの侵攻を止めることはできない。


 ミミズのように這いずり回って、ヴリトラは建物をすり潰す。城の監視塔も叩き折った。


「ヤバいな。オレたちでは押さえきれんぞ」

「任せて」


 ピエラのスケルトン兵もヴリトラの静止に向かう。だが、ひ弱なスケルトン軍団にドラゴンなど押さえられるはずがない。


「このままでは数を減らすだけだ。避難民の救助にあたってくれ」

「でも、クニミツたちだけで、アイツは止められないわっ!」


 どうすべきか、思案しているときだ。


「その血を捧げよ、ドルリーの血族よ!」

「させるか。ごおおお!」


 一人の女騎士が、ヴリトラの進撃をシールドで食い止めた。ルイである。


「今こそ、ドラゴニックの真価を発揮する時!」


 ルイのこめかみから、竜の角が生えた。


「ドラゴニックが、人族に加担するか! 我らドラゴニックは本来、魔王のシモベとして仕えてこそ名誉があるものを!」

「今更何を。人とドラゴンのいさかいなど、とうに議題にすらならん!」

「人の文化に触れて腑抜けた、愚か者が! 今こそ魔王への忠誠を誓い、存在理由をわからせてくれよう!」


 三つ首の一つが、ルイに激しく身体を叩きつける。


 自分の何倍も体格差のある首を、ルイはヒザ蹴りだけでへし折った。


 ヴリトラの首がひとつ、消滅する。


「なんと!? 人と暮らすことを選び牙をなくしたかと思えば!?」

「これが、誰かを守るということ!」


 だが、ルイもヒザをつく。脂汗をかいていた。


「脚が折れてるんだ!」


 回復魔法すら、追いついていない。


「ヤバい。助けに行くぞ!」


 銃で牽制しつつ、オレたちはルイの元へ。


「小賢しい!」


 ヴリトラが、オレたちに向けて首を振り下ろす。


「もう一本、首をもらう!」


 オレは、グレートソードを構えた。


「モモコ、頼む!」


 特大のキャノン砲を、オレはモモコに投げつける。


 モモコがキャッチして、オレの射撃武器を構えた。


「うらああ!」


 跳躍したオレは、モンスターの首に剣を叩き込む。


「ムダよ! 人間ごときに我が首をはね飛ばすことはできぬ!」


 人間の腕力なら、そうかもしれないが。


「シュート」


 モモコが至近距離で、オレの剣に発砲した。


 グレートソードの重みと、銃の反動が重なる。


 ヴリトラの首が、地面に叩きつけられた。


 剣がヴリトラの体内を滑り、首を吹っ飛ばす。


 オレの顔も、モンスターの血と銃のススとでグチャグチャになったが。


「よくも! だが、このブレスには敵うまい!」


 最後の一本が、ドルリー城に向けて光熱のブレスを吐いた。


 城壁まで登って、ルイがシールドで受け止める。


「闇の炎を打ち消す!」


 モモコが、自前のレーザー銃を放ってブレスを押し返す。


「ボクも手伝うわ!」


 ピエラが氷の光線を、モンスターの口めがけて撃ち込んだ。


「なぜだ!? たかが人間が、ドラゴンの攻撃を弾き返すとは!」

「人間をやめちまっているからな」


 オレは、ブリトラの発生源である騎士の肉体に、キャノン砲を撃ち込む。

 三つの首に邪魔をされて仕留められなかったが、今はガラ空きだ。


 キャノンから発せられたファイアーボールによって、ヴリトラが大爆発を起こす。


「おごおおお!」


 本体を爆破されて、ヴリトラも消えていった。

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