第54話 結婚騒動、決着

 ヴリトラを倒してドルリーを救った英雄として、オレたちは王に招かれる。王宮で、夕飯をごちそうになった。


 ドレスコードやテーブルマナーなんて、知ったこっちゃない。オレたちは、普段の装備を着たままだ。出されたものを、ただただ野獣のようにがっつく。それだけ、消耗していたのだ。


 特に疲労が溜まっていたのが、ルイである。あの形態は、一時的にしか変身できないらしい。また、解除するとしばらくは使えなくなるという。


「ほらほら、モジャモジャも食べな」


 モモコが、皿にウニボーの分を取り分ける。


「ありがとうモジャー」

「モジャモジャがいなかったら、アイツの弱点はわからなかった」


 ヴリトラを仕留められたのは、ウニボーの探査能力があったからだ。コイツは、敵の弱点を発見できる。ヴリトラに明確な弱点がなければ、あんなに早く片付かなかっただろう。


 その分、ヘトヘトになってしまったが。


 王族揃ってフリーダムなドルリーじゃなかったら、追い出されていただろう。王都で同じことをしたならな。


「ありがとう、クニミツ。君らだったら、社交ダンスとか音楽などより、食事などのわかりやすい方がいいっしょ?」

「まったくだ。感謝する、ドルリー王」

「礼を言うのは、こっちさ」


 ワインを傾けて、ドルリー王は愉快そうだ。


「いやはや、お力になれなくて申し訳なく思う」


 王都ペンフォールドの国王も、ドルリーの危機に駆けつけた。支援金や食料などの物資を大量に用意している。


「来てくれるだけでも、ありがたいよ。ユーリっちもよこしてくれたし」


 元々、ユーリングはペンフォールドの騎士隊長だ。先に派兵して、ヴリトラなどの魔物たちを率先して蹴散らしたのである。ドルリーの被害が最小限に抑えられたのは、ユーリのおかげだ。


「もったいないお言葉です。私はただ」


 ユーリが、アニエスに視線を送る。


 アニエスが、恥じらいながら顔を背けた。


 なるほど。


 まあ、食っていよう。あれは、二人の問題だ。


「あの二人、交際してるのかな?」

「いいじゃないか。誰が誰と付き合おうが。オレたちはメシをつつき合おう」

「そうだね」


 目より口を動かすことにする。


 なによりも厄介な問題が、目の前で繰り広げられているから。


「ダーリン、会いたかったぁ」

「うわ。寄るな。コロンがキツいんだよ」


 レティ姫が、グレン王子の首に腕を回している。見せつけてくれるよなぁ。


 しかし、この状況は知っておいてもらわないといけないか。


「グレン殿下、大変申し上げにくいのですが」

「う、うん……」


 アニエスの言葉に、グレン王子もシュンとなる。さすがに、空気が読めるか。


「殿下、私とアニエスは、殿下が見初めた以前から幼なじみでして」

「ほほう」


 姫にしがみつかれながら、ユーリの言葉を黙って聞く。


 メイクで整形していたが、アニエスだと一発で見抜いたという。しかし王子の手前、言い出せなかったそうだ。


「どうか、交際を許していただけないでしょうか?」


 ユーリは、今回の防衛戦で一番の功労者である。お願いを聞き入れないわけには、いかない。


「ぼくとしては、アニエスにそっちへお嫁に行ってもらおうかなって。レティと一緒にさ」

「む、むう」


 レティ姫は「やった」とはしゃいでいるが、グレン王子は渋い顔に。


「化粧をちょっと、落としてもらえないか? 薬品の香りはダメなんだ」

「落とすと、こんな感じになるよ? いいの?」


 アニエスにタオルをもらって、レティがメイクを取った。


「ああ。だいぶ身体がよくなった。やはり、メイクだけがネックだったみたいだ」


 目が垂れてマユ毛がない状態だが、すっぴんのレティ姫は言うほど悪くない。


「じゃあ、結婚してくれる?」

「ぜひ。一度くらいはちゃんと話しておきたかった」

「やった。オヤジやったんだけど!」


 ドルリー国王も、「よかった」と涙ぐんでいる。


 だが、喜んでいる場合ではなくなった。


 久しぶりに、女神から連絡が入ったのである。


「どうした?」

『大変です。魔王を復活させて、この世界をなきものにしようとしていた存在が判明しました』


 やはり、そういう奴がいたか。


 スローライフをリクエストしたのに、妙に慌ただしいと思っていたのだ。


「誰だよ?」

『モモコさんのおじいさんです!』

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