第39話 水鉄砲  

「関わらないほうが、身のためだと?」

「ええ。その海賊たちは、漁業組合とも繋がりがあるそうで。嫌がらせがひどくなりそうです」


 マファルダ様は、そうオレたちに警告した。


「クニミツ、どう思う?」


 モモコが、オレに意見を求める。


「ああいうヤツらは、抵抗しないとさらに凶暴化するだろう」


 後ろ盾を潰す必要がありそうだ。海賊狩りか。


「それよりみんな、オジサンたちと遊ばないか」


 オレは、子どもたちに語りかけた。


 怖い思いをしたことだろう。どうにか、海での思い出を楽しいものにしてあげたい。


「こういうのがあるんだ。じゃーん」


 用意したのは、水鉄砲だ。


 ジョウロの技術と、拳銃の仕組みを【作業台】で融合させたものである。


「クニミツ、そんなのいつ作ったの?」


 モモコが呆れていた。


「いいじゃねえか。いつか使えるかなと思って作ってみたんだ。実際、役に立ったろ?」


 あの不良を追い払ったのは、他ならぬランチャー型水鉄砲である。


「そりゃあ、そうだけど」


 オレの意見に、モモコも渋々納得した様子だ。


 オモチャのピストルを、子どもたちに持たせる。


 万が一ホンモノのピストルを持ってイタズラしないように、かなりデザインを近未来風にしてある。


「これはな、水鉄砲っていうんだ。こうやって遊ぶんだぞ」


 オレは、モモコの顔に向けて水を発射した。


「うえっぷ。わざわざ顔に向けて撃たなくても」


 お返しとばかりに、モモコもオレの顔に水鉄砲を撃ってくる。


「ブッ! すまんすまんっ。とまあこんなカンジだ。遊ぼうぜ」


 オレたちは、水鉄砲で撃ち合った。


 海水を入れて、子どもたちも見よう見まねで遊ぶ。


「ほら、マファルダ様も!」

「え、ええ。ひゃあ!」


 子どもたちに水をかけられ、マファルダ様の闘争心に火が付いたようだ。


「やりましたねえ。この!」


 マファルダ様も、童心に帰って引き金を引く。


 子ども相手だというのに、モモコが本気になっている。


「みなさん、お姉さんをやっつけましょー」


 大型の銃を構えて、マファルダ様がモモコに水を浴びせた。


 オレもつられて、モモコに狙いを定める。


 大量の水が、モモコの胸にヒットした。


「――っ!」


 Tシャツが濡れて、透ける。


 しまった。そういえば、モモコの水着はヒモが少なかったんだよな。


「タンマタンマ。水鉄砲遊びは終わりだ。楽しかったか?」


 子どもたちは笑顔で「はーい」と応える。


「何度もいうが、ホンモノは人に向けちゃダメだぞ」


 水鉄砲を回収して、マファルダ様に預けた。


「これは、あんたが管理してくれ。遊びたいといったら、同行者がいる状態で」

「はい。遊んでくださって、ありがとうございます。きっといい思い出になるでしょう」


 日が沈みかけている。


 マファルダ様は子どもたちを連れて帰っていった。


「さて、どうする? せっかくの二人きりの時間を台無しにしてしまったが」

「その落とし前は、付けさせる」


 モモコが、ブチギレていた。


「ギルドへ行こう。海賊の情報を集める」

「よっしゃ」


 今夜、海賊共は街の地下にある賭博場に集まるという。


「一応ギルドには、海賊の討伐が依頼されているんだよなあ」

「でも、誰も手に取った様子がない」


 近くの中年ハンターに、聞いてみる。


 海賊は漁業組合ともつるんでいるため、うかつに手が出せないらしい。


 組合としては、関係を断ちたい。組合長が賭場にハマって、借金をこさえている。しかも、不当な博打で。


「海賊に、懐を掴まれていると」

「ああ」


 多くの冒険者が海賊狩りに挑んだが、返り討ちにあったという。


「ただの海賊狩りにしては、手こずっているな」

「どうも、魔王絡みのモンスターとも繋がりがあるってよ。どっかから魔物がワッと湧いてくるらしい」


 これは、当たりか?


「クニミツ、ひょっとして」


 オレとモモコが、顔を向けあったときである。


「放して!」


 若い女性の声が、ギルドの外から聞こえた。

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