第38話 悪質ナンパ男を退治

「クニミツ、あれは、神官様じゃない?」

「ホントだ。帽子を取ったら、あんな感じになるのか」


 不良に絡まれていたのは、冒険者たちを蘇生させた寺院の女性神官様である。露出の少ない、白い水着に身を包んでいる。オシャレされたら、わからないものだな。


 彼女の周りには、小さい男女が集まっている。海で遊ばせていたようだ。神官様も背が低いが、子どもたちはもっと小さい。孤児院の子どもたちだろうか。


 一方不良の方は、全員がオレより大きい。といっても、魔物と比べたら大したことはないが。


「いいじゃん。こんな庶民向けの海水浴場より、俺たちのいる貴族用海岸まで行こうぜ」


 どうもヤンキー風の不良は、この辺りの貴族らしい。


「イヤです! あっちへ行ってください!」


 神官様は、子どもたちをかばっている。


「この子たちを遊ばせているんです。貴族は自分たちの領域で遊んでいればよろしい」

「んだとお!?」


 不良が、女の子を頭の上まで持ち上げた。


「その子を放しなさい! 嫌がっているでしょう!」

「俺たちと一緒に来るなら、このガキを放してやってもいいぜ」

「できません。放しなさい」

「だったら、こいつを海に沈めてやるしかないか」


 不良の一人が、海へと入っていく。子どもを掴んだまま。


「やめなさい!」

「孤児の一人が死のうが、どうでもいいだろ? 蘇生しちまえばいいんだし」


 その一言で、オレとモモコは同時に動いた。


「だったら貴族も一人、海で死のうとどうでもいい」

「な!?」


 モモコが貴族の両腕を撃つ。


「ぎゃああああ!」


 悶絶する貴族から、子どもを解放する。


「クニミツ」

「よし」


 オレは、モモコから子どもをパスされて、キャッチした。


「なんだテメエら」


「よお。オレも遊ばせろよ」と凄み、ランチャーを構えた。ヤツラの文化圏に合わせて、中世型戦艦の大砲に似せている。


「ひいい!」

「ファイア!」


 不良共に向かって、オレは引き金を引く。


 大量のイカスミが、ヤンキー共を真っ黒にした。


「うわ、くっさ!」

「なんだこれ!?」


 貴族共が、体についた液体を嗅いでうめく。


 肥料と糊を混ぜているから、そうそうニオイは取れないはずだ。


「た、助けて!」


 腕を撃たれたリーダー格が、助けを求めている。腕を破壊され、泳げないのだ。


 モモコは、その男の眉間に剣を突き立てる。


「どうして、民間人のテリトリーに入って来たの?」

「庶民なんて、掃いて捨てるほどいるだろうが!」


 リーダーの顔面にケリを入れ、モモコはさらに溺れさせた。


 こりゃあ、脚まで撃つ勢いだな。


「その辺でいいだろ」

「人をいじめて楽しんでいるやつは、死ねばいい」

「気持ちはわかる。だが、それはオレたちの役目じゃない」


 オレは、不良に治癒魔法を施した。


 ヤンキー共は「覚えてやがれ!」と、捨て台詞を吐いて去っていく。


「危ないところを、ありがとうございました」


 神官様が、子どもたちと一緒にお礼を言いに来た。


「あんな小さい子どもに乱暴していたのを、見過ごせなかっただけ」

 

 モモコは謙遜するが、神官様は首を振る。


「いいえ。もしあなた方が助けてくれなければ、わたしが彼らを」


 拳を手で包み、神官様が指を鳴らした。


「不殺の誓いさえなければ、首を捻り潰すのですが」


 おっかねえ。


「申し遅れました。わたしはマファルダと言います」


 マファルダ様にならって、オレたちも名乗った。


「あいつらは?」

「港を納める領主の次男坊と、仲間です。領主と長男はそれなりなのですが、跡を継げない腹いせに、我々に危害を加えているそうです」


 海賊とも繋がっているとも、ウワサされている。


「で、その海賊とつるんでいるから、デカい顔をしていると」

「そうですね」


 モモコが、「ひどい」とつぶやく。


 敵は【世界の裏側】だけだと思っていたが、人間にもクソッタレがいるようだ。


「なんとかしようとかは、思わないでください。貴族の反感を買ってしまいます」

「善処しよう」


 といって、黙ってられるかっての。


 モモコだって、同じ顔をしてやがる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る