第33話 スキュラ

 轟音とともに、五メートルほど巨大なエイの化け物が現れた。顔こそ愛らしいが、目つきが邪悪そのものである。水もないのに、空中を漂っていた。


「お前たちか? 魔王様復活の邪魔立てをするのは? アタイが始末してやるよ! このスキュラがね!」


 エイの愛らしい口から、酒ヤケのような声が。


「コイツが、この世界と地上を繋げた張本人か」

「そうモジャ、クニミツ。あれはスキュラだモジャ。やっつけるモジャ!」


 ウニボーが息巻くと、スキュラはゲラゲラと笑う。


「精霊ごときが、何をイキってやがるのさ? 何もできないくせに!」

「できるさ。コイツら精霊は、お前らがいなくなった後の世界を浄化しているんだ。それは大事な仕事だ」

「ムダなことを。どうせ世界は魔王の天下となるのさ! 従うのが道理ってもんだよ」

「デカいのは身体だけで、性格は腰抜けなんだな」


 キュートだったエイの口から、牙が剥き出しになった。


「死にたいようだね? お望みどおりにしてやる!」

「負けるのはそっち」


 モモコが威嚇射撃に、マシンガンを放つ。


 弾丸は、胸部分にある巨大ヤドカリの貝殻で弾かれた。


 さらに怪物は、ウミヘビのシッポで、モモコを殴り飛ばそうとする。


 オレがランチャーを撃ってウミヘビを弾き返し、モモコの脱出経路を作った。


「ブラスト・レイ!」


 ピエラが、手から熱線を放つ。


「こちらもだ。焔の賛美歌ゴスペル・ブレス


 対角線上に、ルイも文字通りブレスのような火炎放射器を発射した。


 砂を蹴るように、スキャラはウミヘビを地面へと叩きつける。地面から氷の波を作り出し、熱攻撃を防ぐ。


「めんどくさい、こいつ。一筋縄ではいかない」

「だが、熱が弱点なのは確かだ」


 オレはモモコと、相手の力量を探った。


 モモコの銃弾は意に介さなかったが、スキュラは熱攻撃を明らかに避けている。行動で示したから、間違いない。


「二人は、変わらず熱攻撃を。オレがなんとかする!」

「私たちで、でしょ?」


 モモコが片手で銃を、もう片方で光の剣を逆手に持つ。


「だな。行くぞモモコ!」


 オレたちは、スキュラの両サイドに散った。


「逃さないよ!」


 ヤドカリの貝殻が回転を始め、分離する。オレたちに向かって、回転しながら体当たりをしてきた。器用なヤロウだ。


「ととと!」


 オレとモモコは、スキュラの背中に到達する。


 だが、ヤドカリのコマも追ってきた。


「先にこのヤドカリを始末する!」

「OK!」


 チョコマカと動くコイツに、ランチャーは通用しなさそうである。


「剣で勝負だ」


 オレは、グレートソードに持ち替えた。すばしっこい相手には、動かないで待つのが正解だ。


 モモコはスピード勝負をしているが、人には対策の仕方ってのがある。


 どっちが正しいのかは、自分の中にしかない。


 オレは、叩き潰す方を選んだだけ。


「ぬうわ!」


 ヤドカリが、ゼロ距離まで迫ったところで顔を出す。


 そこへ、グレートソードを振り下ろした。


 貝殻の回転に合わせて、剣を滑らせる。


 オレの首にヤドカリのハサミが到達しそうになった。


 それより早く、ヤドカリの首が吹っ飛ぶ。


 首を引っ込めて、オレはヤドカリのハサミを避けた。髪の毛をわずかに持っていかれたが。


 あっちも、終わるようだ。ヤドカリコマの体内に、光の剣を突き刺している。逆三角形の体制になったまま、ヤドカリは絶命していた。


「どうやった?」

「相手の回転より早く動いてやった」


 モモコが、靴を鳴らす。あれは、ピエラのために作った靴と同じだ。


 なるほど。錬成品のおかげで、そこまでできたと。


「あはは。ナイス」


 こちらがサムズアップをすると、モモコも応える。


「あとは、がら空きになった背中に剣を突き刺すだけ……なんて、思ってるんじゃないのかい?」

「げええ!?」


 オレが言おうとしたセリフを、スキュラの背中が語りだす。


 スキュラの背面が盛り上がった。


 とっさに後ろへ飛び退いて、オレたちは敵の攻撃に備える。


 真っ黒い皮膚を持った人魚が、姿を見せた。


「お前たちの考えなど、アタイにはお見通しなんだよ!」

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