第34話 システムを活かした捨て身

 スキュラの本体である人魚が、手を水平に伸ばす。


 さっき倒した二体のヤドカリが、再回転を始めた。スキュラの元へと飛んでいく。


 エイの背骨辺りを、スキュラは蹴り上げた。


 背骨の一部が外れて、飛び出す。宙に浮いた骨が、棒状の武器へと変わる。


 回転するヤドカリを、棒で突き刺すように受け止めた。貝殻が細長くなり、ヤリの先端となる。


 モモコが二丁のマシンガンで、スキュラを乱れ打ちによって攻撃した。


 回転する貝殻を、スキュラはさらに振り回す。


 銃弾はヤリに阻まれるどころか、貝殻の回転によって跳ね返ってきた。


「これならどうだ!」


 ランチャーを構え、オレは発砲する。砲撃は、跳弾では打ち返せまい。


 ロケットが、スキュラに命中する。大爆発を起こし、逃げ場もなかった。無事では済むまい。


「なに!?」


 だが、スキュラはかすり傷一つなかった。貝殻のヤリで防いだのか。


「インファイトなら、どうだ?」


 オレたちは、銃撃を捨てた。剣を構えて、突撃する。


 グレートソードは重すぎて、人間相手にはまず当たらないだろう。オレはロングソードと盾で攻防一体に賭けた。


 モモコは光る剣を逆手持ちに、「自分を攻撃してきた相手に反撃のカマイタチを放つ」魔法で自身を守る。


「勝てると思ってんじゃないよ!」


 ヤドカリのヤリで、スキュラがオレを突き刺しにかかった。


 盾で攻撃を防ぐも、槍先の回転で盾が持っていかれてしまう。剣で弾き飛ばすしかない。


 モモコは相手の攻撃をかわしつつ、逆手持ちの剣で相手の懐を狙う。


 しかし、相手も氷の障壁をピンポイントで作り出し、モモコの剣を通さない。


 一旦、敵と距離を置く。


「強いな」

「倒す方法は、ある。クニミツ、こっちに」


 モモコは、オレに耳打ちをしてきた。


「確かに、それなら確実だろうな。しかし」

「大丈夫。私に任せて」


 モモコはウニボーに、巨大エイと戦っている二人に作戦を伝えてもらうよう頼む。


「わかったモジャ。行くモジャ!」


 アイテムボックスから、ウニボーが飛び出す。


「逃さないよ!」


 スキュラが反応し、冷気の矢を口から吐き出した。


「アンタの相手は、こっち」


 モモコが、再度インファイトで懐に飛び込む。


「何度やっても同じこ……な!?」


 二連発ランチャーに、スキュラが驚愕する。


 相棒に空きを作ってもらっている間、オレは連続で大型の大砲を二発担いで続けざまに撃ったのだ。


「味方ごと吹っ飛ばす気かい!? 上等だ!」


 ヤドカリのヤリを旋回させ、スキュラは爆発と爆風を自分だけ防ごうとした。


 その腕に、モモコは剣を突き刺す。


「貴様!?」

「チェックメイト」

「くっ!」


 スキュラは、素手でモモコに殴りかかろうとした。


 モモコはスキュラの背後に素早く回り込んで、ロケットの爆発から逃れようとた。しかし、手首をスキュラに掴まれる。


「逃さないよ!」


 スキュラは、剣が突き刺さったままの腕を振り下ろした。ヤリでモモコの腹を刺すつもりだ。


「別に逃げるなんて言ってない」


 モモコは、攻撃を甘んじて受ける。カウンターが発動し、カマイタチがヤリを切り刻む。


 ランチャーを受けて、スキュラは爆発に巻き込まれた。


「やっ……てない!」

「ぐ、貴様ら! この程度の攻撃でアタイが死ぬと思っていたのか?」

「思ってない。だから布石を用意した」

「……な、下から!?」


 エイの背中が、熱を帯びて赤くなっていく。


 モモコは、下で戦っている二人に、特大の火炎放射を頼んだのだ。


 回転によって攻撃を阻むヤドカリはこちらが引き受けている。

 その分、胸部分は無防備になっているはずだった。


 計算はうまくいき、あとはモモコがそこへスキュラを誘導する。


 二人同時に死ぬことになるが、モモコは意に介さない。

 世界の裏側で死んだ冒険者は、寺院で蘇生してもらえるからだ。


 少なくとも、モモコはそう考えているだろう。


 だが、足りない。


 オレは、スキュラの位置まで突撃した。

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