第31話 蘇生

 オレたちは半信半疑で、ワントープの寺院へ。


「いらっしゃいませ。ここは安らぎの女神を祀る寺院です」


 ピエラより少しだけ背が高い少女が、応対しに来た。彼女こそ、寺院のトップである司教らしい。


「ここで、冒険者の蘇生ができると聞いたが?」

「条件によります。残留思念があること。また、【世界の裏側】で死んだことですね」


 普通の旅で戦死などでは、復活はできないとのこと。また、生前に思い残していることがあった場合は、復活の可能性が高まるとのこと。


「世界の裏側について、認識しているの?」


 オレも、モモコと同じ疑問を持っていた。寺院でも、世界に裏側なんてあると信じているのか。


「ええ。冒険者すら、眉唾といって信じませんが。たしかに、こちらとは違う異界があると、寺院は確認しています。我々は、精霊ともコンタクトを取れるので」


 司教に、遺体を診てもらう。オレたちが集めた遺体は、二七体ほどである。


「残念ながら、これらの方々のうち復活の可能性があるのは、九体程度しかいらっしゃいません」


 ほとんど、成仏してしまっているという。あるいは、罪人だから復活はしてあげられないとか。


 ただ、残った九体なら復活も可能だろうとのこと。


「参ります。異界にたゆたいし魂よ。精霊の導きにより、舞い戻りなさい」


 ズモモモモ! という音とともに、骨の一体に肉が付き始めた。蘇生は成功したようだ。


「ここは?」


 枯れ木のように線の細い女性エルフが、目を覚ます。弓をつがえているから、狩人のようだが。


「寺院だ。あんたはオレたちが骨を回収して、この寺院で生き返ったんだよ」

「そうか。助けてくれて感謝する」


 その後、四体ほどが蘇生に成功した。


 しかし、残った骨は灰になってしまう。


「ロストです。魂の劣化が強すぎました。食われすぎです」


 世界の裏側は、魂すら汚染する瘴気にまみれている。その瘴気に、霊魂が穢されたのだろうとのこと。


「いやあ、生き返るぅ」と、猫族の熟女シーフが首をコキコキと鳴らす。

「助かったのか?」


 魔法使いらしき少年が、寺院を見回した。


「これも、神のお導きゾイ! 司教どの、お久しぶりゾイ!」


 つるっパゲドワーフの僧侶が、寺院の司教と握手を交わす。


「えっと、質問だが、この中でピーターって人間族の戦士を知っているか? 今は引退して、ウチの領地で木こりをしているんだが」


 ピーターとは、ウチの第一村人のことだ。


 枯れ木のようなエルフと、ドワーフ僧侶が手を挙げる。


「あの若造が? 会わせてくれんか?」

「もちろんだ」


 他の冒険者も、ついでだからと同行することになった。


「おお! ピーターッ! でかくなった!」

「セーニャ! 生きていたのか!」


 木こりのピーターと、エルフのセーニャが抱き合う。


「随分と老け込んだな? 三〇歳くらい老けて見えるぞ」

「あの地獄から抜け出して、身も心もボロボロになったよ。もう、冒険者は続けられなくなった」


 ピーターが告げると、セーニャもうなずき返す。


「で、ギルバーツは?」


 エルフもドワーフも、首を振った。


「わたしも、おとなしくするか。ベガ?」

「うむ。それがいいゾイ」


 セーニャという名のエルフ狩人と、ドワーフ僧侶ベガも、ここで暮らすことにしたらしい。


「わたしは、狩りをしよう。この地で、手頃なモンスターを倒すよ。ベリーなどの果実や薬草がほしいときは言ってくれ」

「ワシは、教会を建てるゾイ。心の拠り所は必要ゾイ。ギルバーツの供養もしたいゾイ」


 他の冒険者も、引退を決意した。


「よろしくおねがいします」


 術士の少年は、ピエラの両親がいる魔法ショップの店員に。


 猫族のおばさんは迷った末に、この領土に冒険者ギルドを立ち上げた。


 いきなり、この領土が街らしくなってきたな。


 しかし、これでは食糧問題が解決しない。


 他にもワントープで人を募り、果物の採集家や畑などを作る人も集まってきた。

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