第15話 世界の裏側

 モモコのモーニングルーティンは、冷たいシャワーを浴びることから始まる。気合とともに「ヨシ」と言いつつも、寒がっていた。結局、温かいシャワーを浴び直すのだ。


 理解できん。朝食を作りながら、オレは首を横に振る。


「ごちそうさまでした、クニミツ」

「オイラも、ごちそうさまモジャ。クニミツのおにぎりと味噌汁は、やっぱりおいしいモジャ」


 朝飯を食い終わって、装備を整えたら出発だ。


 オレたちは冒険者ギルドへ、依頼を探しに向かう。


「おお、クニミツと、ロザ・ドラッヘか!」


 大型の盾を背負った女騎士が、オレたちにあいさつをする。


「モモコでいい。あなたは?」

「申し遅れた。わたしはルイーゼ。ルイでいい。ドリス様の部下で、クルセイダーだ」


 クルセイダーとは、パラディンより防御面に特化した盾役だ。


「先日はすまなかった。わたしの代わりにドリス様を助けてもらって。ドリス様のご子息を守り、先に帰す役についていたのだ」

「それは立派な仕事だ。今日は、なにかあったのか?」

「ご子息の病気が、まだひどくなってきた」


 大変なんだな、ドリスさんのところも。


「魔王復活を企む闇勢力を追っているのだが、頼もしい冒険者がいない。わたしが単身乗り込むことも考えた。が、わたしが死ねば、ご子息を助ける者がいなくなる」


 そこで、と、ルイがオレたちに同行を頼んできた。


「キミたち二人は強い。協力してもらえないだろうか?」

「どうする、モモコ?」


 モモコは、人見知りだ。対処できるかどうか。


「やろう。銃の試し打ちにはもってこいの悪党だよ」


 それでこそ、モモコだ。


「で、どこへ行けば?」

「先に、子どもの治療をするモジャ」


 大精霊ウニボーが、モモコの肩に乗っかる。


「お前は、精霊の王ウニボーではないかっ」


 どうやら、ルイも知っているらしい。


「そうモジャ。クニミツとモモコのペットになったモジャ。さっそく案内するモジャ」


 ウニボーを冒険者のペットとして登録した後で、ドリスさんの元へ。


「ああ、大精霊ウニボーッ! こちらに戻ってきたのですね?」

「話は後モジャ。子どもの様子を見せるモジャ」


 苦しそうにベッドで寝ている少年が、ドリスさんの息子だろう。


「少しでも元気にするモジャ」


 ウニボーの身体が、ぼんやりとした優しい光を放つ。


 少年の汗が引いていき、顔色もよくなってきた。


「治った?」


 モモコが問いかけると、ウニボーは首を横に振る。


「安心はできないモジャ。根本的な治癒が必要かもしれないモジャ」

「そうなのです。息子を完治させたければ、敵は、ワタシの持っているムーンストーンを渡せと脅してきたのです」


 ドリスさんは、首飾りを外してオレたちに見せた。


「これがムーンストーンです。これを邪悪なる者が手にすれば、魔王の封印が弱まるのです」


 ひどいな。


「その手先ってのは、どこに?」

「ここから少し言った先のダンジョンです。最近になって、出現したのです」


 今でも冒険者たちと小競り合いが続いているという。


「ねえウニボー、質問していい?」

「いいモジャ」

「ひょっとして、私たちが強くなったことと、今回の事件って関係ある?」


 どういう意図の質問なのか、オレはすぐにはわからなかった。


「モモコ、どうしたんだ?」

「いやさ、私たちが変に『銃が欲しい』なんていったから、世界がアップデートされちゃったのかなって」


 銃は強力な武器だ。その分、それに見合うような強い敵を、世界が作り出してしまったのではないか。


 モモコは、そう感じてしまったらしい。


「案外、モモコは神経質モジャ。そんなわけないモジャよ」

「そうなの?」

「この世界は、見た目こそ平和モジャ。しかし、ちゃんと侵略者とかはいるモジャ」


 表に出てきているヤツらは、冒険者でもどうにか取り押さえられる。


「オイラたちが向かうのは、『世界の裏側』モジャ。ダンジョンの行き止まりまで進むと、結界があるモジャ。オイラたちは、その奥に向かうモジャ」


 世界の裏側といって、闇が支配するダンジョンがあるという。


「普通は介入できないモジャ。でも、魔の存在はそこから弱いモンスターを次々と送り込んでいるモジャ」


 なるほど、世界にモンスターが途絶えないのは、そのためか。

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