第8話 ハイエルフの貴族を助ける

 おいおい、世界に危機はないって言ったばかりじゃねえか。

 エライ人がめっちゃ狙われているが?


 馬車を襲っているのは、ウルフに乗ったオーガだ。

 身体は成人男性並みながら、腕っぷしは強そうに見える。


 車輪部分が破壊され、馬車が転倒した。


 馬車から、白いローブに身を包んだ背の高い女性が這い出てくる。

 えらいデカいな。一八〇センチ近い。オレとどっこいどっこいじゃないか?


「ギャハーッ! ハイエルフの女! 魔王様復活のために、ムーンストーンを渡せ!」

「誰があなた方のような、邪悪なものたちなんかに!」


 女性が、下げている首飾りを握りしめた。


 ハイエルフ? なんてフラグビンビンなお方を。


「だったら死ねえ!」


 オーガの棍棒が、ハイエルフのお嬢さんに当たりかけた。


「闇の炎よ、邪悪なる力を飲み込め! 【シャドウブレイズ】!」


 モモコが手から、黒い炎の弾を放つ。


 黒い弾は、棍棒を飲み込んでしまった。


 オーガがつんのめる。


「よし! 喰らえ!」


 隙だらけになったオーガを、オレは一刀のもとに斬り伏せた。


 わお、レベルが一気に上がったぜ。


「なんだコイツラ!?」

「いいから殺っちまえ!」


 仲間のオーガたちが、集まってきた。一気に五人も増えなさったぞ。円状に取り囲み、オレたちを威嚇してくる。


「やれそうか?」

「多分、ここでできないと私たち主人公じゃないよ」


 メタい。


「だよな! やってみるか! ランチェスター戦略だ」

「はっ?」

「二人で一体ずつやっつけるの!」


 専門用語は、わかりづらいか。


「ウルフが早すぎて狙えない!」


 さすがのモモコでも、ウルフの高速移動には追いつかないようだ。


「モモコはオーガを倒せ! オレがウルフの足を止める!」

「OK!」

「行くぜ、【震脚】!」


 オレは、相撲の四股を踏む形で片足を高く上げて降ろす。


 ドン、と地面が揺れた。ウルフが転倒する。


「今だやれ!」

「ファイ……アイスジャベリン!」


 炎を放とうとして、モモコは躊躇した。攻撃を、氷の矢に切り替える。


 三体を撃退した。しかし、ためらった分、敵を残してしまう。


 攻撃を受けなかった二体が、息を吹き返した。一体はこちらに、もう一体は、さっきのお嬢さんの元へ。


「ごめんしくじった!」

「気にするな。モモコは、お嬢さんの援護に行ってくれ。コイツはオレが仕留める!」

「わかった!」


 周囲を見回し、モモコが攻撃できなかった原因に気づく。


 森に火が燃え移るのを、避けたのか。お嬢さんを助けたときは道沿いだったが、今は森の中だ。


 だからオレは、モモコを行かせた。アイツは足が速い。また、草原なら魔法も打ち放題だから。


 震脚のクールダウンが、終わらない。もう一発は無理だ。


 オレは、盾をウルフに食わせる。防具を失うが、死ぬより安い。


 アゴを壊し、ウルフが暴れ出す。


「くそが!」


 オーガの棍棒が、オレの横っ面を狙う。


 相手の攻撃に合わせて、オレは剣を振るった。


 オーガの腕が、吹っ飛んでいく。


 マトモにあたっていたら、こっちの頭が弾け飛んでいただろう。


「ぬううう!」

「トドメだ!」


 がら空きになった心臓部を、剣で突き刺した。これで、武器も潰れてしまう。やはり、拾い物のノーマル装備ではこの程度か。


 代わりに、オーガが剣を落としてくれた。両手持ちか。やや重いが、攻撃も防御もこなせるならこっちメインで行くか。


「そっちはどうだ、モモ、コ?」


 オーガが、ハイエルフさんの放った食虫植物に飲み込まれている。


 モモコの出番は、どうやらなかったようだ。


「危ないところを、ありがとうございました。ワタシ一人では、あれだけの数には敵いませんでした」

「いえ。無事で何よりです」

「ワタシはドリス。アンファンの領主である、ティーレマン伯爵の妻です」


 人間とハイエルフのご夫妻か。


「ご丁寧に。オレはクニミツ。こっちは、ドラなんだっけ?」

「ロザ・ドラッヘ」

「そうそう。ドラちゃんです」

「だからロザ……」


 オレたちが漫才をしている間、ドリスさんは「失礼して」と頭を下げた。馬の足を治療する。


 こちらはモモコと協力して、馬車を起こした。


「こいつは、【クラフト】の出番だな」


 生産スキルを発動する、絶好の機会だ。

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