第7話 一緒にメシを食う人がいるだけで

 この世界では、戦闘力の他に「生産力」というのがある。建築・農耕・料理・鍛冶・刺繍など、クラフトする能力のことをいう。


「クラフトアイテムは、農作物でもいいって書いてあるな」

「とにかく生産レベルを上げて、『作業台』ってのを作る必要があるみたい。クニミツ、どうしよう?」


 よし。だったら。



 オレは、長老に植物の種と農業道具を分けてもらう。


「自分たちの土地が手に入ったら、畑でも耕すか。食費も浮くだろう」

「銃を使うんだから、街から少し離れた場所で作らないと危険だ」


 試し打ちもしたいし、手の内も明かしたくない。


「そんなに、うまくいくかな?」

「いくとも。世界は、そんなふうにできている」


 根拠はないが、そんな気がする。


「どうぞ。余り物の旧型ですが」

「どうもありがとう。十分だ」


 長老から、農作業に使う道具をもらう。


「どうした?」


 さっきから、モモコがオレをじっと見ていた。


「いや、誰とでも話せてうらやましいって」

「営業だったからな。人の選り好みができなかっただけだ」

「いや、そういうんじゃなくてさ」


 思わせぶりな表情を、モモコが見せる。


「一緒に食事をする相手だって、私は初めてでさ」

「お前、マジで暗い人生だったんだな」


 モモコは小さく、うなずいた。


「家には誰もいなくて。ずっと一人で勉強してて。癒やしはゲームだけだったな。それも、こっそり遊んでさ。親にバレたら取り上げられるから」


 オレのガキの頃でも、そういうのはあったのを覚えている。だが、モモコの場合はさらに深刻だったんだろう。


「わたしは成績がいいから、みんな頼ってきて。でも私はしょせん便利屋で、うまくいかなかったら文句を言われた」


 うらめしそうに、モモコが食いちぎる。


「とにかく、逃げたかった。早く大人になりたいなって思ってた。親の言いなりにならなくて済む世界に行きたいなって。一人でも生きていけるって証明したかった」

「生きてるじゃん」

「そうかな?」


 自嘲気味に、モモコは笑った。


「お前は、がんばってる」

「どうかな? クワやカマさえ、人から譲ってもらえないのに?」

「適材適所だ。オレも女の子相手にはしゃべれなかったよ」


 コンパなどにも、誘ってもらったことがある。しかし、マトモに話せるようになった頃には、お目当ての子は他の男に取られていた。


「うわー」

「だから、そんなもんだ」


 オレは苦笑いを浮かべる。


「あんたも、私相手なら普通だよね? 女扱いしてない?」

「妹より歳下だからな。お前は」


 我が妹は、幼なじみと先日ゴールインした。我が家の血筋は、妹が引き継いでくれるだろう。


「できないことがあるなら、他の能力で補えばいい。それにオレは、お前が人付き合いが苦手でも、人間自体がキライってわけじゃないってわかった」

「どうして?」

「村を気にしていたじゃん」


 本当に人が嫌いなら、モモコは村を見捨てていたはずだ。オレも、それでいいと思った。オレだけ動けばいいか、と。


「でも、お前は村のためにがんばった。みんな、お前には感謝しているよ」


 パンをゆっくりと咀嚼しながら、モモコはオレから視線をそらす。


「多分、私はこういう話をしたかった。ゴハンを食べながら」

「そうなのか?」

「自分を客観視できる相手が、ほしかったのかな?」

「かもな。お前のいいところを探してやるよ」

「バカ。もう」


 皿を両手で掴んで、モモコはスープを一気に飲み干した。


 風呂までもらって、就寝の時間に。


「おんなじベッドで寝る?」

「バカ。なに考えてんだ?」

「いやさ、実は女神から特典をもらっててさ」

「何を」

「避妊の魔法」


 オークやインキュバスなどの性的にヤバい魔物に捕まった時、妊娠しないように身体を守る術を授かったという。


「JKっつても見た目だけで、二〇〇歳越えてるから。合法合法」

「ふざけんな。早く寝ろ」


 オレはモモコに背を向ける。


「いくじなし」

「うるっせ」


 翌朝、オレたちは若い衆が連れてきた冒険者と入れ違いで、村を出た。

 街のある方角まで歩く。


 一台の豪華な馬車が、魔物の襲撃を受けていた。

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