第9話 妻です

 適当な木の枝を拾って、馬車の駆動部分に当てる。


「クラフト」


 折れた駆動箇所が、元通りに。


「まあ。あきらめていましたのに」


 ドリスさんの顔が、明るくなる。


「いえ。これくらいどうってことないです」

「お二人さん、よろしければ街まで乗っていらして」

「いいんですか?」

「お屋敷でお礼もしたいので、ぜひ」


 ならばと、お言葉に甘えることにした。


「はぐれた護衛のために、信号弾を撃ちます」


 指で耳をふさぎ、ドリスさんが指から魔法を空へ放つ。カラフルな煙の弾が、上空で弾けた。


「これで、護衛の方たちも私の無事がわかるでしょう」


 オレたちは、ドリスさんに催促されながら馬車の中へ。


 馬車は、元どおりに動いている。やはりというか、揺れるために尻が痛い。


「護衛も連れずに、お一人でなにをなさっていたんです?」


 仮にもドリスさんは、貴族様だ。御者さんだけで逃げていたなんて。


「他の者たちは、倒されてしまいましたの。あれでも、オーガの数を減らした方でしたのよ。でも、あなた方のように戦力を集中して戦えばよかった」


 だから、一人だけで戦っていたのか。かく乱して戦ったのが、アダになったのだろう。


「どうして襲われたんです?」

「魔王復活を企む一団の証拠を、ダンジョンまで確かめに行ったのです」


 入り口は見つけたが、返り討ちにあってしまったという。


「腕のいい冒険者も連れていたのですが」


 どうもオレたちのレベルは、この世界の住人より一〇倍近くは高いようだ。チートはいらんといったのだがなぁ。


「本当にありがとうございます。お礼なんですが、なにに致しましょうかしら?」

「街まで乗せてもらうだけでも、十分ですよ」

「ここから馬車で二時間もかかりません。お礼にはならないでしょう」


 考え込んでいる間に、アンファンの街へ入った。


「街で考えましょう」

「そうですね」


 馬車の窓から景色を眺めながら、オレたちはドリスさんのいるお屋敷に。


「おお、ドリス! 無事だったか! 信号弾の煙を見たぞ!」

「ごめんなさい、あなた。勝手に飛び出してしまって」


 屋敷から、ヒゲの男性が現れた。男性は、ドリスさんが抱き合う。ドリスさんと違い、あちらは普通のおっさんである。


「こちらの方たちが、助けてくださったの」

「おおそうか。ありがとう」


 彼が、ティーレマン伯爵だそうだ。


 伯爵の誘いで、中速までいただいてしまった。


「お礼の品か。そうだ。あそこなんてどうだ?」


 ティーレマン伯爵が手を叩くと、ドリスさんも「ああ」と相槌を打つ。


「冒険者さんなのよね? おうちなんていかが? アイテム保存などで、なにかとご入用でしょう?」


 まさかの家ゲットフラグが立った。なんだってんだ?


「私のお屋敷から少し行ったところに、ボロボロの小屋がございます。昔ノームが、アイテム製造の作業場として使っていたところなんです。今は誰も使っていません」


 そのノームは、もう寿命を迎えてしまったらしい。


 街からも近く、買い物や食事をしたければすぐに寄れる。


「どなたかが入ってくださると、大変ありがたく思います。もう雑草まみれでして。それでもよろしければ」

「ちょっと相談します」


 オレは、モモコと話し合った。


「どうだ? ボロっちいが、オレたちに城ができる」

「願ってもないこと。宿屋だと気を使う」


 ああ、接客すらしんどい子か。


「ありがたく使わせていただきます。お部屋は、こちらで修繕します」

「まあ。遠慮なさらなくても」

「いえ。いただきものなので」


 ならばと早速、ドリスさんが一筆書いてくれた。ギルドには、伯爵が話をつけておくという。


 こうして、オレたちは家を手に入れた。


 必要な家財道具は、部屋を見てからにするか。その前に。


「次は、冒険者登録だな」


 アンファンの街で、冒険者登録を行う。やはり冒険者として転生したなら、登録しておく必要があるだろう。仕事も必要だ。


「いらっしゃいませ」


 受付嬢まで、エルフではないか。ここは、エルフ国家か?


「ええと、ではお二人のご関係を」 


 必要事項を書いた後、オレたちはエルフの受付嬢から質問された。


「私はロザ・ドラッヘ、クニミツの妻です」


 え~っ!?

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