第4話 サイバーパンク世界に飛べない理由

 オレたちがチート所有を拒否すると、女神はなぜかオレたちを気に入った。チート未満の特殊技能をオレたちに付与してくれるという。


「いいのか?」

「いいぜ。『異世界に行ける』と言われたヤツらはたいてい、やれチートだの無双だのと喚き散らすからな。その点お前らは、ファンタジー世界がチートでめちゃくちゃになってしまう、って勝手がわかってる」

「そういう意味で言ったんんじゃ、ないんだがな」


 でも、そうかも。ネット小説で履修はしているかな。


「じゃあ、死ににくい頑丈な体が欲しい」


 不死身とは言わないが、モモコと一緒に旅をするなら、彼女を守れるだけの肉体がアレばいいかな。


「何ラウンドでもできる、若さの体力は?」

「……いいね」


 モモコが「うわ」とドン引きした。


「いいじゃねえか。お前を相手にするなんて言ってねえんだから」

「ひくわー」


 なおもモモコは、後ずさる。


 妙な誤解を招いてしまったようだ。


「でも、ボーナスには至らない。パラディンを目指しな。体力自然回復機能があるから」


 頑丈な肉体の他に、体力が自動的に回復する能力を手に入るらしい。


 別の案を考えよう。


「モモコ、お前さんは?」

「足を治して欲しい」

「もうやった。ソレ以外で頼む」


 見ると、足の手術痕がなくなっているではないか。


「ありがと。これだけでいいけどね」

「ヤダっつっても、付与するから覚悟しとけ」

「オッサンが体力なら、私は魔力自然回復をもらおうかな」

「ダークナイトを目指しな。その機能がつくぜ。あと、女の子にはこれを無料で提供することにしてる」


 ちょいちょい、と女神がモモコを手招きする。


「マジ?」

「マジマジ。いいから受け取っておけ」


 何をもらったかは知らないが、モモコは赤面しながら戻ってきた。 


「じゃあ二人には、異世界に言って楽しんでもらう。お別れの前に、大事なことを言うぜ」


 なんだ? 注意事項でもあるのだろうか。


「お前らさっき、『サイバーパンクな世界に行きたい』がどうとか言っていたな?」

「ああ」

「結論から言う。ムリだ」


 強調するかのように、女神はオレたちに釘を刺す。


「正確には、行けなくて正解だ。そんな世界に、お前らは飛ばせない。どの世界の女神でもな」

「理由は?」

「チートなんかで解決できない問題が多すぎるからだ」

「あー……」


 なんか、納得した。


 発達しすぎた文明社会が抱えている問題は、チートを使ったゴリ押しなんかでは終わらない。


 政府の怠慢、企業の腐敗、埋まらない格差、環境破壊。

 それによって疲弊して、手頃な快楽に溺れる人々。


 そんな問題に介入しようものなら、ストレスがマッハで削れていく。銃や、電脳世界を触媒にした超能力を持ってしても、さらなる技術によって利用されるか、蹂躙されてしまうのがオチだ。


「あれだけ発達した技術をもってしても解決できない問題を、たったひとりの人間が解消できるわけがないのさ」

「めんどくさい、と」

「そうそう。たしかに武装は魅力的だが、行ったとしてもバトルは気持ちよくないぜ」


 政治とか警察機関との小競り合いが、メインとなってくるらしい。


「思っているより、展開は地味なんだな?」

「テーマが中世風ファンタジーみたいな、新たな世界の創造ではないからな。崩壊するのを避けられない世界でいかに自分だけが生き残るか、がテーマになってくるからよ」


 派手に魔法をぶっ放すより、策略などに注意したほうがいいという。


「せっかく遠隔武器でドカンってやりたかったんだが」

「そうだね。私も、バババってしたいよ」


 オレはモモコと相談して、ある結論に達した。


「さてさてお二人さん、何をもらうかは決まったかな」


 女神から急かされる。



 オレたちは「せーの」で、同じセリフを言う。




 銃が欲しい! と。




「そんなんでいいのか。やっぱお前ら最高だな」


 その言葉を残し、女神は消えていった。

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