第3話 競争キライな令和JKと、負け組アラフィフおっさん

「無双」という言葉を聞き、モモコは心底イヤそうな顔をした。


 女神もキョトンとしている。


「お前、無双イヤか?」


 オレが尋ねると、モモコは「うん」とうなずいた。


「なんでだ? ザコ相手に無双とか、楽しいんじゃないか?」

「期待に応えないといけないから」


 おもむろに、モモコはニーソを脱ぐ。白い足首に、痛々しい手術痕が。


「陸上でもやっていたのか?」

「高二まで。でもアキレス腱を切っちゃってさ」


 ため息混じりに、モモコは自分の心境を吐露する。


 モモコの家では「一等賞・一〇〇点満点」が当たり前で、点数が下がると反省会をさせられる家だったとか。


 で、足をケガしたせいで役立たずの烙印を押された、と。


 次に押し付けられたのが、受験勉強だった。


「親に期待されながら育ったから、結果を残すことに意義を感じない。誰かのために動くのは、もうウンザリ」

「人と関わるのが、めんどくさいのか」

「うん。自分のために色々やりたい」


 ほどほどがいいと、モモコは主張する。


「無双できるってわかると、人の役に立つ必要がある。エラい人とかに目をつけられて、色々やらされるでしょ?」


 こういう奴もいるのかー。コイツはエラい人の嫌な部分ばかり、見てきたのだろう。


「いわゆる令和病。競争は他人に操作されている気がしてキライ」


 ああ、なんか社内教育で聞いたことがある! 今の若者は、競争してもモチベが上がらないって。


「わかるよ。ヘタに出世すると、変に責任取らされるもんな」


 オレもソレがイヤで、降格してもらったことがある。


「あんたも? 意外」

「オレはアラフィフだからな。『勝ち組・負け組! 勝たないとゴミ!』って言われていたド真ん中の世代だ」


 ダチは勝ち組にこだわって起業して、社長に。


 うらやましいなと思いつつ、オレは負け組で細々と暮らしていた。


「だったら、最強とか目指すんじゃ?」

「その親友を首を吊った状態で発見したら、お前さんにもわかるよ」


 頂点に立つことの重みと、責任が。


 モモコは、言葉を飲み込むかのようにノドを鳴らす。


「……ごめんなさい」

「いいんだ。ゴメンな。重い空気にしちまって」


 オレは、もう疲れた。競争とか勝ち負けとか、まったく興味はない。


「というわけで、女神よ。オレたちの意見は一致したぞ」


 女神は体育座りをしながら、鼻提灯を膨らませていた。オレが声をかけると、「はっ」と目を覚ます。


「わかりました。どんな無双・チートをお望みですか?」

「いらん」

「は?」


 オレの発言に、女神が目を丸くする。


「レベル一から始めて、ボチボチの能力をもらいたい」


 モモコも、オレの隣で「うんうん」と首を縦に振った。


「この世界って、倒さないといけない存在とかはいるか?」

「魔王とかはいません」


 過去の戦争で、その手の勢力は滅びたらしい。今の魔族のほとんどは、人類と敵対などはしていないという。多少は小競り合いがあるが、勢力は弱いそうで。


「ですが、わりかし危険な魔物とかいますよ?」

「構わん。地道に行くさ」

「欲がないんですね?」

「どっちかっていうと、欲張って痛い目を見た、って言えばいいかな……」


 オレは肩をすくめる。 


 モモコの場合は、業突く張りに育てられて、末路を見ちまったって感じかな。


「フフフ……」


 女神がうつむきながら、肩を震わせる。どっちかっていうと、邪悪な気配? が多々寄ってきた。


「ひょっとして、ヤバい?」

「かもな」


 どうやら、女神の機嫌を損ねてしまったようだが?


「あっはっは!」


 足をバタバタさせて、女神が天を仰ぐ。そのまま、彼女は寝転んでしまった。しばらく笑い転げた後、女神は半身を起こす。


「お前ら、最高だな」


 敬語が抜け、女神はニタニタと笑う。これが、彼女の本性らしい。


「気に入った。お前らがなんといおうが、チートにならない程度の有利な条件をつける。言ってみな」



 なんと女神は、オレたちにボーナス特典をくれるという。

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