第2話 無双ってしなきゃダメ?

 モモコとふたりで木製テーブルに座って、夏野菜カレーを食う。


「あーうまい。やっぱ料理はクニミツに任せるに限る」

「適材適所だな。錬成は器用なお前に任せる」

「うーっす。でもさ」

「うん?」

「こうやって二人でゴハン食べるなんて、初めて会ったときは想像もしなかったよね」


 カレーを食いいながら、オレたちは当時を振り返る。

 


 ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~  


 

 ここはどこだ? オレは今、真っ白い空間の中にいる。


 さっきまでは、突然車に乗り込んだJKと一緒に、三台の黒塗りに追いかけられていた。ようやく振り切ったかと思ったら崖に転落して、気がついたらここにいる。まったく、妹の結婚式の帰りだったのに。


 オレとJKは、どうやら死んだらしい。


 死因であるJKが、隣であぐらをかいているからだ。JKの制服は斜めにカットされて、スリットが入ったようになっている。白と黒のストライプが入ったニーソの先には、黒いロングブーツを履いていた。全体的に線が細い。が、フリルの付いたノースリーブのブラウスは、胸元がはち切れそうになっていた。


 髪は黒いロングで、前髪は、中央だけピンク色にカラーリングされている。


 手には、銀製の指輪がジャラジャラ。スカートのベルトにも、ジャラジャラがついていた。


 こいつは、「地雷系」だな。


「えーっと、虎口トラグチ 國光クニミツさーん」


 名前を呼ばれたので、オレは「あっはい」と手を挙げる。


 オレを読んだのは、頭に輪っかがついた女神様だ。露出が激しく、肩や背中が出ている。


「では、あなたが龍洞院リュウドウイン 桃子モモコさんですねー」

「違う。私は褪紅たいこうの魔術師、ロザ・ドラッヘなり」


 ああ、地雷だーっ。うわーっ。


「何?」

「なんでもねえよ。それより」


 オレは、目の前にいる女性に声をかける。


「あんた、女神さまだよな?」

「ええ。女神です。この度は、死ぬ予定のなかったあなた方を救済するために、現れました。つきましては、異世界を満喫していただこうと」


 モモコが「待って」と手を上げた。


「元の世界には、帰らなくていい?」


 その言い方には、やや毒がある。「向こうでやり残したことがあるから帰りたい」というより、「帰りたくない」といったイントネーションがあった。


「はい。帰ったとしても二百年後の世界になります。あなたを知っている人はもう生きていません」


 女神は少女の言葉を汲んだのか、意味ありげな言葉で返す。


「ちなみに、その間に家族は、心配なんてしていないよね?」


 諦観を込めて、少女モモコは尋ねる。


 どんな生き方をしたら、こんな言葉が出てくるんだろう? 


 まあ、【龍洞院】って名字だけで察しはつくが……。


「もちろん、していませんでした。また、その直後にあなたのご家族だった【組】は壊滅しました。いわゆる『ざまぁ』って奴ですね」

「私が金を持ち逃げして、トドメを刺したからね」


 モモコがサムズアップをする。やたら清々しく。


「では、お二人にはいわゆる、中世風の異世界に飛んでもらいます。文明とかは、あまり発達していない世界ですね」

「ふうん」


 あまり興味なさげに、モモコは腕を組む。


「どうした?」

「いやさ、サイバーパンクの世界がよかったなーって」

「あああ。わかる」


 中世風だと、できることは限られている。


 反面サイバーパンクなら、銃やらサイボーグ化やら楽しそう。 


「ビジュアルは変えられないのか?」

「はい。そのままです」


 つまり、転生はするが生まれ変わりとかではない。


 ただし、オレたちが性的なコトになってもいいように、「二〇〇年余計に」歳をとった状態でいてもらうそうだ。


「二〇〇歳でJKとか、アレなハイエルフだね」

「ある意味パンクしてて楽しそうだな」


 なんかやる気出てきた。


 オレたちに用意された道は二つ。


 ひとつは、女神が用意したジョブを使ってそこそこ強い状態でサクサクプレイ。


 もう一つは、レベル一で草原のど真ん中に放り込まれて、後は気ままに生きる道だ。


「無双とか気持ちいいですよ?」 


 女神が、微笑みかける。


 たしかに、ストレスフリーなのは魅力的だな。


 そう思いかけた。


 だが、モモコは意外な反応を見せる。




「えー。無双しないとダメ?」

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