懐古主義オッサンと中二病JKは、無双しない

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

第一章 無双しないとダメ?

第1話 サイバーパンクの世界がよかったね

「おいモモコ、風呂を沸かしておいてくれって言ったよな?」


 農作業を終えたオレは、自分より二倍以上年下の少女を叱る。服装は、赤と白のコントラストが美しいプロテクターだ。


「何度言ったらわかるのだ、クニミツ? 私の名前は褪紅たいこうの魔術師、ロザ・ドラッヘなり」


 ミニスカドレスアーマーの少女モモコが、作業台の前でウニョウニョと呪文を唱えている。紺色のブレザー制服を改造したドレスアーマは、見た目に反して高い魔法効果を持つ。モモコの行為自体に、意味はない。コイツはなんでも雰囲気重視なのである。


「うるせえな、お前なんてモモコでいいんだよ」

「ロザ・ドラッヘ」

「はいはい『ロザ・ドラッヘピンクのドラゴン』ね」

「バカにすんな! 戦闘レベルは私の方が上なんだから!」


 モモコのメッシュがかった前髪の中心が、自己主張するかのように跳ねた。


「お前の生産レベルはオレより下だ」

「ぐぬぬ。言い返せない」


 問答している場合じゃない。作物を収穫したのだ。身体中、泥と汗まみれである。


「で、風呂は?」


 こっちは汗びっしょりだから、早く風呂に浸かりたいのだ。


「待って。今は錬成の途中なんだから。バジリスクの牙が手に入ったから、それで毒性投げナイフが作れないかと」


 コイツ、また風呂用の火を錬金術に使いやがったな。


「自分の作業台を使えよ」

「私の作業台、錬成に時間がかかるんだもん」


 お前が作業台用の素材を、ケチってるからだろうが。


 安定して風呂を提供してもらうために、素材を分けてやるか。


「オレみたいなオッサンの汗は、身体につくと加齢臭まみれになるぞっ」

「今更なんだっての。加齢臭ぐらいで驚かないし。」

「そうか。お前がいいならいいんだが」


 あーさっさと風呂に……っ!


 遠くの方で、悲鳴が上がるのが聞こえた。


 また、森で薬草屋がモンスターにでも襲われたか。


「聞こえたか?」

「うん。近いね」


 錬成できたばかりのナイフを手に、モモコも立ち上がる。


 作業台の火を風呂炊きに移して、現場へと向かった。


 やはりである。幼い少女が、モンスターに追い詰められていた。


「ウルフだ。デカいぞ。軽トラックぐらいある」


 ナワバリを荒らされて、敵と認識してしまったか。


「任せて。この毒ナイフで!」


 決めポーズをした後、華麗にナイフを投げる。


 ナイフは、虚空へと消えた。


「おいお前、【投擲】のスキルは?」

「……取ってない」


 投げた瞬間、モモコは後悔したようだ。


「まあいいか。投擲を取らないとマトモにナイフが当たらないってことがわかっただけでよし!」


 オレは、背中に担いでいたギター型大剣を抜く。下からウルフへと斬りかかり、胴体を真っ二つに。別個体の牙が、わずかに腕をかすめる。しかし、秒で傷がふさがった。オレは【パラディン】である。神の加護によって、負傷すると自動的に治癒がかかるのだ。


 モモコも、マイクスタンド型の杖を、半分引っこ抜く。紺色に光る魔力でできた剣が伸びた。逆手持ちのまま、ウルフの集団を蹴散らしていく。こいつは【ダークナイト】という。魔法使いと騎士のスキルを両方持てるのだ。


 ウルフなんぞ、上級職のオレたちにとって敵ではない。


 が、オレたちの間を抜けてウルフが少女へ迫る。


 オレの足元には、さっきの毒投げナイフが。 


「キック!」


 オレが蹴ったナイフが、ウルフのケツにぶっ刺さる。


 アオウン、とウルフは悲鳴を揚げた。最後の一匹が、絶命する。



「あ、ありがと」


 怯えつつ、少女は立ち上がった。


「いやなに。家まで送ろう」

「うんっ」


 少女は、オレの太ももにしがみつく。


「おねえちゃんもありがと」

「あ、う」


 こんな無垢な少女を前にしているのに、モモコは挙動不審に。


「こんな子でもダメか?」

「クニミツがコミュ力オバケなだけだいっ」


 前世が営業職だからな。


 子どもを無事に家へ帰して、風呂タイムだ。


 人目もはばからず、モモコは自分の服を消す。シャワーで軽く身体を流し、檜の浴槽へダイブした。


「あっ、このやろ。先に入りやがって」

「早いもの勝ちだし。あんたはしばらく、シャワーでも浴びてな」

「んだよ、ったく」


 オレは少しの間、シャワーでガマンする。


 ふたりとも裸だが、気にしない。お互いに恥ずかしがる時期は、とっくに過ぎた。冒険者登録名簿では、【夫婦】扱いだし。


 この世界に来て、随分になる。裸を見るのは慣れていると言っても、コイツの大きな胸には未だに驚かされている。


「ねえクニミツ」

「なんだよ?」

「やっぱ、行くならサイバーパンクの世界がよかったよね」

「だな!」


 女神に無理を言っても仕方ないが。


「こっちみたいな、中世風世界でもまったりしてていいんだけどさ。やっぱりSFガジェットとか憧れちゃうよね。変な仕事や犯罪も多そうじゃん。一筋縄ではいかなそうな」

「わかる! サイボーグとか、腕が機械の敵とか、憧れるよなぁ」


 オレは力説してみたが、どうもモモコの反応は鈍い。


「電脳世界とかじゃないの? デジタル化したモンスターを操るみたいな」

「お前、そっち系か。オレは懐古主義だから、いまいちわからんのだが」


 まあ、ボヤいても仕方がない。オレたちを召喚してきた女神が、この世界の担当だからな。


「どうでもいいけどな。モモコ」

「ん?」

「早く出ろ」

「えー。一緒に入れば? 一応、夫婦じゃん」

「あれは、共同生活を怪しまれないために」

「いいっての。ホレホレ」


 モモコが、スペースを開けてくれる。


「お前、始めからそのつもりだったのか?」

「んふふー。せっかく召喚されたんだからさ、できなかったこと、しよ」


 ではお言葉に甘えて。 


「クニミツ、今日のご飯は?」

「お前の好きな、夏野菜カレー」

「うう、野菜たっぷりカレーは好きじゃない」

「何を言うか。身体にいいんだぞ」


 そこで、会話が途切れた。


「……クニミツ、もうちょっと離れて。ハズい」

「お前が誘ったんでしょうが!?」


 

 現実世界で一緒に事故死したオレたちは、異世界に飛ばされて、まったりと暮らしている。

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