第5話 ハクスラと文明病

 さて、草原にポツンと取り残されたわけだが。


「おっ、ちゃんといるな」


 モモコの姿も確認した。


「おっさ……クニミツさんだっけ? 服が」

「ん? おおっ」


 オレの装備が、剣士の姿になっている。ロングソードと、腕に円盤状の盾か。


「へえ。サマになってんじゃん」

「いやこれ、あれだ。元は傘と腕時計だな」


 持っていた傘と腕時計が、剣と盾に変化しただけだな。重さが同じくらいだもの。変化したのは武器と盾だけのようだ。スーツは変わっていない。


「じゃあ、私のこれも?」


 モモコが持っているのは、デカい魔導書だ。彼女も、服装は制服のままである。


「杖は、なにが変形したものかわかるか?」

「多分だけど、折り畳み傘かな?」


 夕立が来ると天気予報で言っていたので、常備していたという。


 オレとモモコの腰から、電話のベルが鳴る。オレは古風な黒電話の音、モモコはボカロ曲だ。


 スマホが使えるのかなと思ったが、違った。もっと薄型で、ネット機能のない端末である。


 着信が『女神』からということだけはわかった。


「もしもし?」

『言い忘れたが、とりあえずステータスとかはその端末で見られるから』

「そうか。よくある『ステータスオープン』とかはないんだな?」

『うちのシマではやらん』


 はっきり言いやがる。


『あと、銃の実装はレベルが上がったら、【銃製造】にスキルポイントを振れば使用可能にするよ』



 それまで冒険をして、素材を集めて、レベルを上げろと。


「回りくどいな」

『目標があったほうが、楽しいだろ?』と言い残して、女神は電話を切った。


 たしかに。オレたちのような枯れた負け犬たちが、闇雲にサバイバルしても仕方がない。なにか熱中できるものがあれば、楽しいというものだ。


「スキルツリーの確認ができるよ」


 戦闘スキルと、生産スキルが分かれているのか。


 バトルしてレベルが上がると、戦闘スキルにポイントがもらえる。


 生産の方は、何かを作り続けることで経験値を上げていくらしい。


「めんどくさいけど、やりがいはありそう」

「やってみるさ」


 まずは、第一モンスター発見だ。


 スライム状の怪物である。見た目はファンシーだ。


 ポカっと殴ると、すぐにスライムは消滅した。


「【ファイアーボール】! からの、【アイスジャベリン】!」


 モモコは、魔法で焼くことにしたらしい。火の玉や氷の矢で、スライムを攻撃している。


「魔法の熟練度アップか?」

「違う。気持ち悪くて触れない」


 見た目はファンシーなのだが、やはり生理的にムリのようだ。


「とりあえず進むか。あそこに村が見えるから、あっちを目指そう」

「わかった」


 スライムを殴りつつ、先へ進む。


「クニミツさん」

「呼び捨てでいい。オレもモモコって呼んでいいか?」

褪紅たいこうの魔術師、ロザ・ドラッヘ。ちゃんと覚えてオッサン」

「うるせえロザ・ドラッヘピンクドラゴン

「なんで、ドイツ語がわかるかなぁ!?」

「リモートで海外の人を相手にするんだから、多少はな」


 ある程度は、心得があるというものだ。


「で、なんだモモコ?」

「クニミツ、アイス食べたい」

「我慢しろよ文明病!」


 どうも、氷の矢を放っていたら、アイスが食いたくなってしまったとか。


「アイスって、生産スキルで作れるかな? もしくは、それこそチートでしかムリとか」


 そういうことを女神と相談しとけよな。


「砂糖かハチミツがあったら、かき氷くらいは作れるってよ。女神からのメールを確認しとけ」 スライムどもを撃退しつつ、経験値を稼いでいく。

「おっ、レベルが上ったな」


 スキルポイントを手に入れた。端末を操作して、スキルを取っていくようだ。


「職業は、こっちで決めていいのか。ギルドで登録するものだと思っていた」


 さっそくオレは、【パラディン】を選択する。


『教会を介さない、独自の神を信仰する職業』

 だという。


 教会の言いなりにならなくていいのは便利かも。でも信仰する神ってのは、おそらくあの女神かもなぁ。


 モモコも、【ダークナイト】を選んだ。


「えっと、『禁断の闇の力を操り、相手を漆黒の炎に包む剣士』か」


 なるほど、よくわからん。


「なんかね、魔術師寄りの騎士をそう呼ぶみたい。剣術メインになると【サムライ】、体術寄りになると【クノイチ】になるんだって」

「おお、なんかエッチだ」

「うるせえセクハラオヤジ」


 オレも、魔法を使わないなら【戦士】になり、役割も脳筋的になるという。

 術をメインにすると、これまた筋肉ムキムキなイメージの職業【モンク】に変わるとか。


 さらにモンスターを倒しつつ、村に向かう。


「クニミツ」

「今度はなんだ、モモコ? 牛丼でも食いたくなったか?」

「違う。これ」


 モモコが地面を指差す。


「アイテムだな」


 武器が手に入った。ロングソードである。


「少しだけ、今の装備より強いな」


 女神からもらった端末で、鑑定を行う。


 端末によると、職業に応じた装備がドロップするという。なるほど、ムダがない。


「剣が折れかけていたから、ちょうどよかった」


 さっそく拾った剣を、傘から変化した剣と交換する。さらば。


「私は、指輪を見つけた。魔力アップだって。いる?」

「それは、お前が付けておけよ。必要だろ?」

「うん。そうする。どう?」


 モモコが、指を見せてくる。


「厳ついデザインだが、似合ってるな」

「ふふーん」


 うれしそうだな。


 装備品は選んだ職業だけではなく、装着者の性格や美意識も反映されるようだ。


 オレの場合は無骨なデザインで、モモコの場合はややアングラ気味なモノが落ちるらしい。


 続いての敵は、ゴブリンの群れである。数は一七匹か。


「多いな!」

「村に向かってるよ!」

「助けようぜ。ついでに泊めてもらおう」

「うん!」

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