第2話何も変わらない当たり前

『おはよう』


次の日もまた次の日も何も変わらない日常がそこにはあった。夢か幻だったと思いたい自分と自信を持って嫌いにならなければこのまま続くんだって思う自分で行ったり来たり。

そんな思いとは裏腹にのんびりとした時間が過ぎていく。心地いいこのまま溺れてしまいたい君の優しさに。


ある日君はいつものモノトーンの綺麗目な格好からストリート系とでもいうのだろうか。そんな格好をして私の隣に来た。


『こんな格好嫌いだよね?どう?』


くるっと一回転するとオーバーサイズのカーゴパンツが消えた。いや、落ちた。大学の隅っこのベンチの場所で下着丸出しの中ドヤ顔の笑顔で気付いてない。


[あはははははあっははははは]


笑うしかなかった。不器用な君のやり方に愛おしさまで感じた。どこか抜けてる君が好きだと心の中で叫んでいた。


『何で笑うの?』


飼い主を見失った子犬のような困った顔がまたツボなのだ。なんでこんな人を嫌いにならなければ君のいない世界なんて考えられないのに。

自己嫌悪に陥る。笑いながらも頭の中はいっぱいいっぱい。



私の目線に気づいたのかやっと状況を飲み込めたようだ。出直してくると逃げていった。


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ふと昔のことを思い出した。ベンチに深く腰を下ろし空を見つめながら、私の付き合ってはじめての誕生日の数日前まで遡る。



その日は確か君の部屋で課題を2人でしていた時だ。君は自分の部屋の一点に何度も目を向ける。レポートを一文書くと見てまた一文書くと見ての繰り返し。私が君の挙動をずっと見ていると照れ笑いしながらまた文字を書く作業に戻る。



その視線は私の座ってる位置の後側。ベットがあるだけ。いやらしいことを考えてるだろうか私にも心の準備があるし。でも拒否したらかわいそう…。キスしかしてない関係から親密になっていくだけなのだからと自分に言い聞かせて、平常心を保つ。



私はレポートに視線を向け進めていくと君は頭をかいて焦り始める。ぼーっと君のことを見つめていると視線が合う。ショートウルフのツンツンの髪が乱れていくその様はとても艶やかだった。私はシャーペンを持った手で頬杖つきながら好きの意味を知る。ふにゃーと笑う君を見ると安心する。


[何隠してるの?楽しそうな顔して集中出来ないんだけど]


『何でもない何でもない』


必死に赤面させていう君が可愛くて愛おしくて

君の隣に来て抱きしめる。急に抱きしめたためか2人して横に倒れてしまった。ベットの下が見える、どっからどう見たって贈り物みたいな包みの箱があった。これを見てたってこと?私の緊張は何のために??。次は私が赤面した。


『どうしたの?暑い?熱ある?』


君の声を聞いてるとさっきまでの悶々とした考えなんて吹き飛んでしまって、どうでも良くなってきた。そこまで低いわけでもない優しさが滲み出てるような君の声を聞いてると安心する。


『ねぇーてば、ちょっと近すぎると色々我慢がきかないんだけど…。』


君の顔が私の顔と重なる。何も聞こえなくなる、何も考えられなくなる君のことしか。君のキスは甘いだけじゃなかったのかもしれない。

私には子供すぎたのか降り注ぐ愛に溺れることしか出来なかった。底なしの愛に。君のドス黒い影に気づけたら君は私のそばにいてくれましたか?


そんな甘い時間の後で訳を聞くと、サプライズプレゼントしたかったらしい。でも言いたいし

誕生日の当日に喜ぶ顔を想像したら言えないし、その葛藤からの視線だったらしい。そこからプレゼント紹介が始まりレポートどころではなかった。不器用な君、優しい君、好きだ。



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思い出話に苦笑しながら座ってると君が戻ってきた。次はちゃんと服を着てきたみたいで膝に手をつきながら背中で息をしてる。どこまで行って来たらそんなに息が上がるのだろう。


『嫌いになった?』


[君が無理してることは分かったから別に嫌いにはならないかな]


『また頑張るから』


そういうと君は笑う。手を差し伸べてまた優しさをふりかける。私はその手を取りハマっていく。






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